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転校
てんこう
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「みの 美しいものになら」 四季社
1954(昭和29)年3月30日
入力者鈴木厚司
校正者林幸雄
公開 / 更新2008-03-26 / 2014-09-21
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 誰にとつてもいやなのは転校である。
 私は二年になる時に仙台から東京へ、東京で小学校を卒業して、女子大の附属へ入り、その年の九月に名古屋へ、翌年の九月に又、女子大へと、四度、いやな思ひをした。中でも最もいやな思ひ出を残したのが、女学校に這入つてからの二つ、名古屋へと、東京へとである。小学校のときの転校は、それ程、苦痛を感じないうちに、すぐ馴れてしまふが、女学校へ這入つてのちの転校はずい分つらかつた。東京から名古屋への時は殊に、折角、勉強してやつと這入り、やうやく学校にも、お友達にもなれ始めたばかりの時だつたから、とても/\いやだつた。
 最初から私は反対で、「一人だけでも、おばあ様のところに残る」と頑張つてきかなかつたのだが、九月も間際になつて、どうしても転校しなければならなくなつてしまつた。
「長年の宿望だつた女子大、やつと三月しかたゝないのに、むざ/″\名古屋の学校なんかへ……」私は泣き泣き転校準備の勉強をやつた。
 愛知県一を訪ねたのが八月の末だつたらう。転校届けを出して、一週間とたゝぬうちだつた。しかし、女子大の方からの書類が間に合はなかつたので、試験をうけさせてくれず、私は「女子大へかへれるか」と思つたが、官舎の木俣さんのお世話や何かで、S校へ入つてしまつた。
 あの場合、危うく宿なしの憂き目をみるところだつたのだから、木俣さん、その他には充分感謝すべきであり、私もよく校風をのみ込んで、それに順応して行くべきであつたのだが、私は、ちつともうれしくなかつた。
 もと/\好きで入つた女子大と、いや/\押し込められたS校では、比べものにならない。云ふこと、なすことのすべてが気に喰はず、癪の種だ。だからS校のよさなどわかる訳がない。私は、只、むやみやたらと女子大をこひしがつた。転校する者に共通の悪い癖は、在校中はさほどにも思はないのに、転校すると、前の学校はいやによくみえる。そして又、新しい学校のアラばかり目につく、それである。
 私は、その甚だしきものだつた。たうとう学校へ行くのが苦痛になつた。皆のいふ言葉がわからないのと、乱暴なのは、私の学校嫌ひをます/\あふり立てる。その上に、自治精神を尊ぶ女子大から、強制……といふのかしら……従来の意味での、良妻賢母型にはめ込まうとするやうなS校への転校なんだから、私はクサつてしまつた。
「何々すべし、何々すべからず」学校の生活がすべて、この定規によつてあてはめられてゐる。頭の先から、爪の先までが、すべて規則でつくられてゐる。規則、規則、規則の一点張り……少くとも私にはさう見えた。
 髪は三年以上のものはむすぶこと、上衣は長さ何センチ、スカートのひだはいくつ、靴下、カバンは黒、何んだ、かんだと微に入り細を穿つてゐる。規律、それは大切だ。多くの人が学校といふ一つの団体をなして、すゝまうとするのには秩序といふものが大…

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