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「さうや さかいに」
「そうや さかいに」
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「折口信夫全集 12」 中央公論社
1996(平成8)年3月25日
初出「言語民俗論叢」1953(昭和28)年5月
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2009-05-12 / 2014-09-21
長さの目安約 38 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

柳田国男先生が「さうやさかいに」を論ぜられて後、相当の年月が立つた。その論が、画期的なものであつたゞけに、此に対して、何の議論も現れなかつたことは、世間が先生のこの方言論を深く、認容したと言ふことになる訣である。
今頃更めて、ある時期における京阪語の代表的なものとせられてゐた「さうやさかいに」論を書きついで行く必要はない気がする。併し此で定論を得てをさまつた、この語の論策を綴める為に、かう言ふ追ひ書を書き添へておいた方が、よいと思ふ。其で先生にしてみれば、時間さへあれば、当然書き直してゐられるはずの部分を、先生よりは暇人である私が、少しばかりの書きつぎをさせて頂くつもりになつたのである。謂はゞ、最みすぼらしい続貂論である。
この語の最濃厚な利用圏内に成人した私の、先生のあの研究に、とりわけ深い恩恵を受けたことの感謝の心を、外の方々――たとへば金田一先生のやうなお人たちにも見て頂きたい。此心持ちは、先生には固より、にこやかにうべなうて貰へるものと考へるのである。
 さかいに さかいで
そやさかい――さうやさかい――系統の語の第一のめどになるそやと言ふ語は、勿論さうぢやの発音のやつれたもので、曾てその最完備した形さうであるから来たものなることは、言ふまでもない。だから、其は論の外において、さかいに・さかいで又は、さかいの形を論じれば其で足る訣である。
さかいの三つの形のうち、最有力に使はれてゐるものは、さかいである。外の二つは、さかいにすら、以前のやうには、使用せられてはゐない。
その中、さかいでが一番早く流行圏外に出てしまうたが、近代の浄瑠璃・小説文学には、標準語と見てよいほどに、よく使はれてゐた。残る二つの中、さかいには、今遣ふ人にも古典的な感覚を持たれる様になつて、さかいのやうに緊密感を受けぬやうになつた。今後特殊な事情が加つて来ぬ限りは、さかいを限界として、その系統は消えてしまふか、でなければ、音韻の大飛躍が起つて来さうな気がする。――さう言ふ見きはめがつけられてゐる。其理由の一つは、既によほど以前から、よつて・によつて・よつてになどが、なか/\勢を示してゐたからである。
 さかいの さ
さかいのさについては、素朴な語原説からすれば、「……ぢや から」と言つた形を截り出して考へることが出来るのである。語尾らしく見えるかいは、勿論からである。此だけは、何としても疑ひがない。
意義は違ふが、語形のそのまゝな、より・からの系統のからも、かいと言ふ形で使はれることが多い。この方では、かいとさ・さに(様から出たさに語尾にのついたもの)が、よく似た用途にあることは参考になる。「浮世風呂」でなくても、上方語と江戸語とを対照させて考へた人の頭に、すぐ浮んだえどつこのからと上方のさかいとは、語の根幹から言へば、非常に近かつたのもおもしろい。
柳田先生はこゝに来て頗注意すべ…

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