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ドモ又の死
ドモまたのし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「ドモ又の死」 角川文庫、角川書店
1954(昭和29)年1月30日
入力者青空文庫
校正者富田倫生
公開 / 更新2012-08-18 / 2014-09-16
長さの目安約 34 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#ページの左右中央]


ドモ又の死
(これはマーク・トウェインの小話から暗示を得て書いたものだ)


[#改ページ]

 人物

花田          ┐
沢本 (諢名、生蕃)  │
戸部 (諢名、ドモ又) ├若き画家
瀬古 (諢名、若様)  │
青島          ┘
とも子   モデルの娘

 処

画室

 時

現代 気候のよい時節
[#改丁]



沢本と瀬古とがとも子をモデルにして画架に向かっている。戸部は物憂そうに床の上に臥ころんでいる。

沢本  (瀬古に)おい瀬古、ドモ又がうなっているぞ、死ぬんじゃあるまいな。
瀬古  僕も全くうなりたくなるねえ、死にたくなるねえ。……ともちゃん、おまえもおなかがすいたろう。
とも子 もう物をいってもいいの、若様。
瀬古  いいよ。おなかがすいたろう。
とも子 そんなでもないことよ。
戸部うなる。
どうしたの、戸部さん、あなた死ぬとこなの。まだ早いわ。
瀬古  ともちゃんはここに来る前に何か食べて来たね。
とも子 ええ食べてよ、おはぎを。
沢本  黙れ黙れ。ああ俺はもうだめだ。(腹をかかえる)つばも出なくなっちまいやがった。
瀬古  ふうん、おはぎを……強勢だなあ、いくつ食べたい。
とも子 まあいやな瀬古さん。
瀬古  そうしておはぎはあんこのかい、きなこのかい、それとも胡麻……白状おし、どれをいくつ……
沢本  瀬古やめないか、俺はほんとうに怒るぞ。飢じい時にそんな話をする奴が……ああ俺はもうだめだ。三日食わないんだ、三日。
瀬古  沢本は生蕃だけに芸術家として想像力に乏しいよ。僕が今ここにおはぎを出すから見てろ――じゃない聞いてろ。ともちゃんが家を出ようとすると、お母さんが「ともや、ここにこんなものが取ってあるから食べておいでな」といって、鼠入らずの中から、ラーヴェンダー色のあんこと、ネープルス・エローのきなこと、あのヴェラスケスが用いたというプァーリッシ・グレーの胡麻……
戸部うなり声を立てる。
沢本  だから貴様は若様だなんて軽蔑されるんだ。そんなだらしのない空想が俺たちの芸術に取ってなんの足しになると思ってるんだ。俺たちは真実の世界に立脚して、根強い作品を創り出さなければならないんだ。だから……俺は残念ながら腹がからっぽで、頭まで少し変になったようだ。
とも子 生蕃さんはふだんあんまり大食いをするから、こんな時に困るんだわ。……それにしてもどうしてここにいる人たちの画はこんなに売れないんでしょうねえ。
沢本  わかり切っているじゃないか。俺たちがりっぱなものを描くからだ……世の中の奴には俺たちの仕事がわからないんだ……ああ俺はもうだめだ。
瀬古  ともちゃん、そのおはぎの舌ざわりはいったいどんなだったい……僕には今日はおはぎがシスティン・マドンナの胸のように想像されるよ。ともちゃん、おま…

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