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負けない少年
まけないしょうねん
作品ID47232
著者吉田 甲子太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「少年小説大系 第10巻 戦時下少年小説集」 三一書房
1990(平成2)年3月31日
入力者門田裕志
校正者富田倫生
公開 / 更新2008-01-06 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

  一

 北アメリカ大陸の北はずれ、北極海にのぞんだアラスカのお話です。
 この地方には、エスキモーという人種が氷の原に雪小屋をつくって、住んでいます。
 キーシュは、あるエスキモーの村で、どの雪小屋よりも一番みじめな雪小屋にお母さんと二人っきりで住んでいる可愛らしい少年でした。キーシュのお父さんは立派な狩人で、村が飢饉で困った年に、村人たちのために食物にする肉を取って来ようとして獣とたたかい、とうとう命を落したのです。しかし、そういうことは、もう村人たちにも忘れられてしまって、あとに残ったキーシュとお母さんとは、貧しい暮しをしなければなりませんでした。
 だが、キーシュは今ではもう十三歳になり、お父さんゆずりのがんじょうさと負けん気とを持つようになりました。
 ある日、村の寄合の席で、村の頭がもう別に何もいうことはないか、と一座を見まわした時に、何と思ったか子供のキーシュがぬっと立ちあがりました。そして彼は、この間自分とお母さんのところへ分けてもらった肉は、硬くて古くて骨だらけだった。これからはもっとちゃんとした肉をもらいたいものだと、おそれげもなく文句をつけました。
 彼は自分の力で自分の権利を守ろうと決心したのです。しかし、皆は子供のくせにと思って、キーシュの生意気なのにあきれかえりました。そこで、これからおとなの寄合に出て、生意気な口をきくとなぐるぞとおどかしつけて、彼を坐らせようとしました。
 ところが彼はおどりあがって、皆が頼みに来るまでは、もう二度と寄合へ出て口なんかきいてやらないぞ、と負けずにどなり返しました。その上、これから僕は僕だけで狩をする、僕の殺して来た獣の肉はえこひいきなしに皆に分けてもらいたい、村の弱い人たちに、弱いからというので、ひどい分け方をするようなことをしてもらいたくない、といばりちらしました。それから小さな肩をそびやかして、その寄合のある雪小屋から出てゆきました。
 おとなたちはうしろからからかったり、馬鹿にしたわらい声を投げつけたりしましたが、キーシュはかたく口を結んで、しっかり真正面を向いてふりむきもしませんでした。

  二

 翌日彼は、どこへゆくのか、氷と陸地がつながり合う海の縁を歩いてゆきました。彼に出会った人は、彼が弓と骨の矢尻をつけた沢山の矢を持ち、お父さんが狩に使っていた大きな鎗を、小さな背中に背負っているのに気がつきました。皆はこの小生意気なふうていを見て笑いました。そして寄るとさわるとキーシュのことばかり話し合いました。こんなことはこれまでにないことです。彼のようなかよわい年で、狩に出かけた者は一人だってありません。まして一人っきりで出てゆくなんて思いもよらないことでした。中には心配そうに首を傾げたり、可哀そうなことが起りはすまいかと、つぶやいたりする人もありました。村の女たちが気の毒そうな目で母…

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