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木の祭り
きのまつり
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」 てのり文庫、大日本図書
1988(昭和63)年7月8日
初出「幼稚園と家庭 毎日のお話」育英書院、1936(昭和11)年11月15日
入力者めいこ
校正者もりみつじゅんじ、鈴木厚司
公開 / 更新2003-11-05 / 2014-09-18
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 木に白い美しい花がいっぱいさきました。木は自分のすがたがこんなに美しくなったので、うれしくてたまりません。けれどだれひとり、「美しいなあ」とほめてくれるものがないのでつまらないと思いました。木はめったに人のとおらない緑の野原のまんなかにぽつんと立っていたのであります。
 やわらかな風が木のすぐそばをとおって流れていきました。その風に木の花のにおいがふんわりのっていきました。においは小川をわたって麦畑をこえて、崖っぷちをすべりおりて流れていきました。そしてとうとうちょうちょうがたくさんいるじゃがいも畑まで、流れてきました。
「おや」とじゃがいもの葉の上にとまっていた一ぴきのちょうが鼻をうごかしていいました。「なんてよいにおいでしょう、ああうっとりしてしまう。」
「どこかで花がさいたのですね。」と、別の葉にとまっていたちょうがいいました。「きっと原っぱのまんなかのあの木に花がさいたのですよ。」
 それからつぎつぎと、じゃがいも畑にいたちょうちょうは風にのってきたこころよいにおいに気がついて、「おや」「おや」といったのでありました。
 ちょうちょうは花のにおいがとてもすきでしたので、こんなによいにおいがしてくるのに、それをうっちゃっておくわけにはまいりません。そこでちょうちょうたちはみんなでそうだんをして、木のところへやっていくことにきめました。そして木のためにみんなで祭りをしてあげようということになりました。
 そこではねにもようのあるいちばん大きなちょうちょうを先にして、白いのや黄色いのや、かれた木の葉みたいなのや、小さな小さなしじみみたいなのや、いろいろなちょうちょうがにおいの流れてくる方へひらひらと飛んでいきました。崖っぷちをのぼって麦畑をこえて、小川をわたって飛んでいきました。
 ところが中でいちばん小さかったしじみちょうははねがあまりつよくなかったので、小川のふちで休まなければなりませんでした。しじみちょうが小川のふちの水草の葉にとまってやすんでいますと、となりの葉のうらにみたことのない虫が一ぴきうつらうつらしていることに気がつきました。
「あなたはだあれ。」としじみちょうがききました。
「ほたるです。」とその虫は眼をさまして答えました。
「原っぱのまんなかの木さんのところでお祭りがありますよ。あなたもいらっしゃい。」としじみちょうがさそいました。ほたるが、
「でも、私は夜の虫だから、みんなが仲間にしてくれないでしょう。」といいました。しじみちょうは、
「そんなことはありません。」といって、いろいろにすすめて、とうとうほたるをつれていきました。
 なんて楽しいお祭りでしょう。ちょうちょうたちは木のまわりを大きなぼたん雪のようにとびまわって、つかれると白い花にとまり、おいしい蜜をお腹いっぱいごちそうになるのでありました。けれど光がうすくなって夕方になっ…

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