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小酒井さんのことども
こさかいさんのことども
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」 作品社
2005(平成17)年9月15日
初出「猟奇」1929(昭和4)年6月
入力者門田裕志
校正者Juki
公開 / 更新2014-05-31 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 小酒井さんが長逝されました。私はボンヤリしています。同じ名古屋に住んでいたため特に親交があったからです。
 医学者として大家であり、探偵文学者として一流であったことは世間周知のことと思いますが、私の知っている幾人かの実業家は小酒井さんのことをこのように申して居りました。
「小酒井さんは大事業家の素質を持っています。あの人が病身だということは如何にも残念です。健康でさえあったら実業の方面でも大事業をされるのですに」と。
 小酒井さんは、ひそかに或る土地会社式、乃至は宝塚式の大娯楽場設立の計画をされていたようです。或時その片鱗を私にも洩らされ「いよいよその時には貴郎にも是非」とこのように云われました。五六十万円ぐらいの計画のようでした。
 そこで私は思った事がありました。
「小酒井さんが夭逝しなかったら、医学界では、自宅に設けてある研究所から多くの博士を出して一大王国をつくり、探偵文学方面では、息をかけた人を多く造って一大王国をつくり、実業方面では前記の計画を完成してこれ又一大王国をつくったことであろう」と。
 小酒井さんが私の家へ来られた度数と、私が小酒井さんの家をお訪ねした度数とを比較しましたなら、小酒井さんが私の家へ来られた度数の方が多かったように思われます。来ると、何時も文学の話ばかりで、それが小酒井さんには楽みであったようでした。他にそういう話をする人が名古屋に無かったからだろうと思われます。
 小酒井さんは身に備わっている威厳を、わざと自身でぶち壊そうと心掛けるような所がありました。しかし夫れは失敗に終わり、いつも威厳が保たれていました。実に壊わしても壊わしても壊わし切れない頑丈な威厳を持っていました。
 小酒井さんは場所慣れた人であり、何人にも臆めない人であり、どのような環境にも融合することの出来る人でした。
 小酒井さんは三十分でも一時間でも人の話を聞いて、自分では黙っていることの出来る人でした。それで少しも小酒井さんの影が薄くもならず、いや却って小酒井さんという人の印象を強く人に与え、尊敬を招く人でした。
 知ったか振りをしないばかりか、一切のことに小酒井さんは見得を張りませんでした。余程の修養が出来ていなければこういうことは仲々出来ないのだと私などには思われました。
 衆と共に仕事をされる場合には小酒井さんは身を以って率いました。ですから自然と衆人が小酒井さんを頭目の位置に据えて了いました。
 私に断然禁酒をすすめたのは小酒井さんでした。
 小酒井さんを「よく取りよく散じた人」と云い度いのですが、そうは云われないようです。小酒井さんは原稿料無しの原稿を平気で沢山に書き、極端に安い原稿料の原稿をも平気で多く書きました。で「よく取らなかった人」でした。しかし散じた方はいちじるしく、これは随分派手でした。
 肺を非常に悪くしている、貧しい青年の原…

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