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小酒井不木氏の思い出
こさかいふぼくしのおもいで
副題―その丹念な創作態度―
―そのたんねんなそうさくたいど―
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」 作品社
2005(平成17)年9月15日
初出「サンデー毎日」1929(昭和4)年4月14日
入力者門田裕志
校正者Juki
公開 / 更新2014-06-06 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

            ◇
 小酒井不木さんが逝去された。哀悼にたえない。氏が医学界と探偵小説界に尽くされた功績の数々については、世人は大方知悉していられることと思われる。
 ここでは主として氏が日常のことと執筆態度などについて書くことにする。
 氏の義理堅さは有名なもので、原稿など依頼を受け、引き受けられるや、枚数期日など極めて正確で殆ど編集者に迷惑をかけたことなどはなかった。いつも編集者に安心を与えていられた。これは医者が患者に安心を与えて、その心を喜ばせるという、あの心理から来ている。
 会合などのあった場合に、時間通りといいたいが、時間より早く来られるのが氏の特色であった。
 学者ぶらないばかりか、学者あつかいにされることを嫌って、そういう話を持ちかけると、いつも上手に、何んとなく別の方へ話を持って行かれた。
            ◇
 手紙をよく書かれたのも有名で、氏へ手紙を出して、その返辞を貰わなかった人は殆どあるまい。時々返辞が遅れたり溜ったりされた時は、病体を押してわざわざ出かけて来られ「手紙を取りっぱなしにして済みません、それで参りましたよ」などと軽い調子でいわれて、愉快そうに話して行かれた。
 そのように几帳面であったので、時々微笑させられるようなことがあった。此方でハガキを差し上げるとハガキで返辞をされ、こっちで封書を差し上げると封書で返辞をされ、こっちで此方の町名番地姓名を印刷ズリのもので差し上げると、氏もそうしたもので返辞をされ、こっちで、侍史と書けば氏も侍史と書いて来られ、硯北と書いて差し上げると硯北と書いてよこされた。驚くべき対等さであり、驚くべき他人感情顧慮さであった。で、つい微笑してしまう。
 氏は決して人や人の作を悪口しなかった人であった。患者に対して医者が「悪いよ」というと必ず患者は不快の心持を起こす。だから「悪いよ」ということをいってはいけないという――あの医者としての心掛から来ているものと思われる。
「能率的にお書きなさいよ」と人に進められるのが氏の癖であった「創作ですよ。そう能率的にばかり書けるものですか」などと私達がいうと、「でも私は能率的に書いておりますよ。あなたも能率的にお書きなさいよ」とまた進められる。実に人にそういって飽かずに進められたそのことこそ誠に能率的であった。
 実際氏は能率的に作をされた。人の十年かかってやれるかやれないか解らない程の分量の仕事を、――科学の研究方面でも創作の方面でも三年間ばかりの間に行られた。
 人が能率的に仕事をしていないのを見ると、氏は自分だけが能率的に仕事をやっていることに面栄ゆさを感ずるのではないかと思われる程であった。
            ◇
 私は氏の書斎において、氏の書かれた原稿を見た。どの作もそうだとはいわないが第一義の作をされる時には、決してぶっつけに書…

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