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世界の裏
せかいのうら
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎歴史小説傑作選」 作品社
2006(平成18)年3月30日
初出「外交」1941(昭和16)年8月21日、9月1日、9月11日、9月21日、10月1日
入力者門田裕志
校正者阿和泉拓
公開 / 更新2010-12-22 / 2014-09-21
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

一 十六堂会

 この面では理屈は云わない。イデオロギーなどというものも書かない。この面では、世界中の、政治や外交や軍事や、その他、社会のあらゆる部面に実在した面白い事件ばかりを書く。それもメンスツリートの事件ではなく、塵埃や黴の花の咲いている露路や、裏通りで起った事件、乃至は、サロンのカーテンの蔭や、宮殿の廊柱の背後などで起った事件を書く。
 さて、上海の、ある秋の日の出来事であるが、N国の、N博士が、ある世界的有名な国際会議へ列席すべく、上海へ行った。
 その秘書S氏に関する出来事なのであるが、重要書類と現金とを入れた鞄を持って、黄包車に乗った。ところが下車して気がついてみると、盗まれたのか、置忘れたのか、鞄が無い。
 S氏の仰天しまいことか! すぐに工部局や領事館にとどけ出て、鞄の取り戻しに狂奔した。無能では世界第一の名をほしいままにしている上海の警察が、こんな場合に役立たないことはわかりきったはなしで、いつまで経っても鞄は出て来ない。そのうちに会議の日は近づく。重要書類がないことには、N博士が、いかに有名な雄弁家でも、国際的識人でも、ものが云えない。国家の恥辱となる。
(どうしよう)
 と、N博士は、B秘書と一緒に蒼くなった。その時、上海通の知人が、
「工部局などを手頼りにしないで、十六堂会へ行って相談してみたまえ、現金は出まいが、書類は出るだろう」と教えてくれた。
「十六堂会とは?」
「青[#挿絵]の中にある特殊の機関だよ」
「青[#挿絵]とは?」
「上海へ来て、青[#挿絵]のことを知らないような君だから、重要書類を紛失するような間抜けたことをやるのさ」
 それでS氏は、半信半疑ながら、十六堂会へ行って、鞄を取り戻してもらいたいものだと相談した。
 すると、十六堂会の要人は頷いて、
「明朝おいで下さい」と云った。
 そこで又S氏は、半信半疑ながら、翌朝、十六堂会の事務所へ行ったところ、
「これでしょう」と云って鞄を出してくれた。
 見ると、失った自分の鞄であった。S氏は雀躍して、内味を調べたところ、現金は無くなっていたが、重要書類は、一枚の脱落もなく、存在していた。
「何んだい、一体、十六堂会とは?」
 と、S氏は、数日後、十六堂会の事を教えてくれた上海通の知人に訊いた。
「化物さ」これが上海通の返事であった。「上海の化物の一つさ」
 全く、欧亜の掃溜のような上海などには、十六堂会のような一国の警察権以上の勢力を持っている秘密結社があるらしい。
 でも、十六堂会の真相を知ろうと思ったら、今回の支那事変以来日本人ともお馴染みの青[#挿絵]のことを知らなければならないし、青[#挿絵]のことを知りたいと思ったら、その兄弟分の紅[#挿絵]のことや、それらの現世的勢力秘密結社の祖先たる、三合会や哥老会や、白蓮会や、六祖の故事や銅銭会の茶碗陣などを、順を追って…

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