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前兆?
ぜんちょう?
作品ID47257
著者国枝 史郎
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」 作品社
2005(平成17)年9月15日
初出「朝日」1929(昭和4)年7月
入力者門田裕志
校正者Juki
公開 / 更新2014-06-06 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 小酒井不木さんが長逝された。前兆のようなものが私にあった。
 私は新舞子に住んでいる。愛知県知多郡新舞子である。私の家の前に小酒井さんの別荘がある。私の家と同時に建てた別荘である。
 新舞子は名古屋市から愛電に乗ると四十分で達する、その新舞子の一つ向うの駅を大野と云って世界で最も早く設立された海水浴場である。相当大きな町である。私の家のすぐ下に女の按摩さんがいる。お稲荷さんの堂守を兼ねている。よく私の所へも来て療治をしてくれる。或日その女の按摩さんが私の所へ来て次のように話した。
 今日大野へ治療に行きました。三軒へ行ったわけです。すると三軒ながら私に訊くのでした。「国枝さんが死んだという噂があるが本当か?」と。で、私は云ってやりました。「いえそんな事はありません。現に今日も国枝さんを見掛けました」と。するとその人達は云いました。「ああでは小酒井さんが死なれたのだろう」と。この噂は大野ばかりで無く新舞子にも伝わって意外に反響を起したようであった。私は一寸気になったので小酒井さんへ電話で様子を訊ねようかと思ったが、小酒井さんはああいう科学者であり迷信らしいものを排していられたのであるから、そんな事を電話で云ってやったら一笑されるであろうと思って止めた。然るにそういう噂が立って約一ヶ月経った時に、小酒井さんが長逝されたのである。変だな――と、私は今も何んだか変に思っている。この事実は小酒井さんが長逝された日に、当地の新聞記者の幾人かへも私はお話した。



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