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和算の社会的・芸術的特性について
わさんのしゃかいてき・げいじゅつてきとくせいについて
作品ID47292
著者三上 義夫
文字遣い新字新仮名
底本 「文化史上より見たる日本の数学」 岩波文庫、岩波書店
1999(平成11)年4月16日
初出「社会学 第三号」1932(昭和7)年
入力者tatsuki
校正者山本弘子
公開 / 更新2010-12-01 / 2014-09-21
長さの目安約 30 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

〈一 和算とは〉 日本の数学を普通に和算という。和算とは洋算に対しての名称であり、主として維新後に呼びなされた。けれどもこの名称の行われたのは、数学がひとり西洋伝来のもののみにあらず、わが国にも前から厳として存在し、価値の高いものであったことを、この名称によって指示しているのである。西洋の数学が学校教科に採用されつつある頃に、かくのごとき現象の見られたのは決して無意義のことでない。
 和算というのは前にもいわれたことがある。その頃には漢算に対する和算であり、また和術もしくは倭術とも称した。天元術の器械的代数学に依頼するものは漢算であり、支那伝来の算法であるが、天元術の高次方程式を避けて簡便に算盤の解法に訴え得るものを賞用して、これを和術と呼んだのである。この点にいわゆる和算、すなわち日本の数学の理想が極めて明瞭に顕われている。単純化を貴ぶ精神が無くして、なんぞ、この種のことが起きて来ようぞ。算盤は支那で行われ、わが国へは支那から伝えたことに疑いはないが、しかし支那では日常の計算用に行われたのみに過ぎない算盤が、日本では複雑な数学の単純化のために重用せられ、そのために方程式の逐次近似解法や級数展開法の発達を促すことにもなった。その結果は極めて重大である。しかも支那ではそういう事情はついに見られなかった。これ故に特に和術、和算の名称が用いられ、漢算と区別しようと企てたのも、当然のことであろう。その区別を立てた和算家の間に、支那では見られなかった特殊の発達が顕現したのも、自然の勢いであったろう。

〈二 和算から洋算へ〉 事情すでにかくのごとくなるが故に、天文暦術においては支那西洋は優れているけれども、数学の一科に至ってはわが神州は世界に冠たりと考え、優秀な能力を自ら誇ったものであるが、少なくも支那に対しては、当然の誇りであった。西洋の天文暦術や理化学、航海砲術等が盛んに学習されたにもかかわらず、和算家が依然として多く西洋から学ぶことをしなかったのも、一方にはこの自負心あるがためであったろう。もちろん、三角法や対数などは西洋から伝えられたものを好んで研究し教授し、これを卑しむとか、これを避けようとしたのでもないから、ことさらに西洋の数学に接触しないように努めたわけでもないが、天文暦術家などに比して、その接触の機会に乏しかったという事情もあるが、常に独特の優秀観を有するが故に、悠然として独自の道を進むこともできたのであったろう。
 故に西洋数学の学習が大勢上から必要になってからもこれに対して和算と称して、一時は対抗の態度も現われないでは済むまい。しかし学科課程上の西洋数学の採用は世界の角逐場裏に出て、科学の力で世界と争わなければならぬという状態になったので、軍事や工芸など学ぶものの必要からどうしても、西洋の数学が必要であるから、そのための必須のことであって、ひとり和…

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