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ランボオ詩集
ランボオししゅう
著者
翻訳者中原 中也
文字遣い新字旧仮名
底本 「中原中也全訳詩集」 講談社文芸文庫、講談社
1990(平成2)年 9月10日
初出「ランボオ詩集」野田書房、1937(昭和12)年9月15日
入力者オーシャンズ3
校正者L.P.S.
公開 / 更新2009-05-08 / 2014-09-21
長さの目安約 73 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#ページの左右中央]
     初期詩篇
[#改ページ]

 感動


私はゆかう、夏の青き宵は
麦穂臑刺す小径の上に、小草を蹈みに
夢想家・私は私の足に、爽々しさのつたふを覚え、
吹く風に思ふさま、私の頭をなぶらすだらう!

私は語りも、考へもしまい、だが
果てなき愛は心の裡に、浮びも来よう
私は往かう、遠く遠くボヘミヤンのやう
天地の間を、女と伴れだつやうに幸福に。
[#改ページ]

 フォーヌの頭


緑金に光る葉繁みの中に、
接唇が眠る大きい花咲く
けぶるがやうな葉繁みの中に
活々として、佳き刺繍をだいなしにして

ふらふらフォーヌが二つの目を出し
その皓い歯で真紅な花を咬んでゐる。
古酒と血に染み、朱に浸され、
その唇は笑ひに開く、枝々の下。

と、逃げ隠れた――まるで栗鼠、――
彼の笑ひはまだ葉に揺らぎ
鷽のゐて、沈思の森の金の接唇
掻きさやがすを、われは見る。
[#改ページ]

 びつくりした奴等


雪の中、濃霧の中の黒ン坊か
炎のみゆる気孔の前に、
   奴等車座

跪づき、五人の小童――あなあはれ!――
ジツと見てゐる、麺麭屋が焼くのを
   ふつくらとした金褐の麺麭、

奴等見てゐるその白い頑丈な腕が
粘粉でつちて窯に入れるを
   燃ゆる窯の穴の中。

奴等聴くのだいい麺麭の焼ける音。
ニタニタ顔の麺麭屋殿には
   古い節なぞ唸つてる。

奴等まるまり、身動きもせぬ、
真ツ赤な気孔の息吹の前に
   胸かと熱い息吹の前に。

メディオノーシュ(1)に、
ブリオーシュ(2)にして
   麺麭を売り出すその時に、

煤けた大きい梁の下にて、
蟋蟀と、出来たての
   麺麭の皮とが唄ふ時、

窯の息吹ぞ命を煽り、
襤褸の下にて奴等の心は
うつとりするのだ、此の上もなく、

奴等今更生甲斐感じる、
氷花に充ちた哀れな基督たち、
   どいつもこいつも

窯の格子に、鼻面くつつけ、
中に見えてる色んなものに
   ぶつくさつぶやく、

なんと阿呆らし奴等は祈る
霽れたる空の光の方へ
   ひどく体を捩じ枉げて

それで奴等の股引は裂け
それで奴等の肌襦絆
   冬の風にはふるふのだ。

  註(1)断肉日の最終日にとる食事。
   (2)パンケーキの一種。
[#改ページ]

 谷間の睡眠者


これは緑の窪、其処に小川は
銀のつづれを小草にひつかけ、
其処に陽は、矜りかな山の上から
顔を出す、泡立つ光の小さな谷間。

若い兵卒、口を開き、頭は露き出し
頸は露けき草に埋まり、
眠つてる、草ン中に倒れてゐるんだ雲の下、
蒼ざめて。陽光はそそぐ緑の寝床に。

両足を、水仙菖に突つ込んで、眠つてる、微笑むで、
病児の如く微笑んで、夢に入つてる。
自然よ、彼をあつためろ、彼は寒い!

いかな香気も彼の鼻腔にひびきなく、
陽光の中にて彼眠る、片手を静か…

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