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画室談義
がしつだんぎ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「青眉抄・青眉抄拾遺」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
入力者川山隆
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2008-04-24 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 いつだったか、ある東京の婦人雑誌の記者が数人見えて、私のいろいろな生活を写真に撮られたり記事にして行かれたことがあった。
 その折り、私の画室の内部も写真に撮りたいということを言われて非常に困りました。何分私の画室というのは、私以外誰ひとりとして、たとえ家族の者や孫たちでもみだりに出入りさせぬことになっている、まあ私個人の専有の仕事部屋であり、私にとってはかけ換えのない神聖な道場とも考えている処でありますからその理由を述べてお断わりしたのですが、再三たっての頼みに敗かされて内部を見せて写真も撮らせましたが、大へん困却した感じを強くしたことは今でも忘れません。
 それからもいろいろな処から、あるものは研究心から、あるものは単なる好奇心、興味心から同じような頼みを持ってこられる人が時々ありましたが、出来得る限りお断わりし続けて来ました。これからもそのような依頼には応じたくないと思っている。

 大正三年ごろ京都市中京区間町竹屋町上ルの私の今の住居、画室を建ててから思えばもう二十幾年、当時まだ息子の松篁は十三歳であった。

 画室は、母屋とは廊下続きの離れの形式になっており、南向きの二階建てで、東、西、南の三方は明り障子とガラス障子の二枚が嵌まっていて、北面だけが壁で仕切られています。畳数は十四あります。
 明り障子とガラス障子の二枚戸にしたのは陽光の明暗強弱を適度に調節するためで、それらの三方の外には一尺幅ほどの小さい外廊が廻らしてあり、それにかたちばかりの欄干も取りつけられてあります。そこにはさまざまな植木鉢など並べて置くのに都合がよろしい。

 画室の四囲には掘り池を廻らし、金魚だとか鮒、鯉の類の魚を数多く放ってあり、そのもうひとつ外側を樫の木、藤の棚、ゆすら梅、山吹きなどが囲んでいて、その間から母屋の中庭にかけては小禽たちの鳥舎、兎、鶏からさては狐小舎までが散在していて、私や松篁にとっては写生、勉強のよい対象になってくれ、また孫たちにはこよなき遊び相手になってくれています。

 朝、樹立ちを洩れて陽光が惜し気もなく画室のなかへ流れこむ。どこからか野鳥が飛んで来てはゆすら梅に止まって囀りはじめる。すると籠のなかの小鳥たちもそれに和すように鳴き出す。
 木々の間をぬうて歩めば掘り池に緋鯉の静寂がのぞかれる。
 朝の一瞬、貧しいながらここは私にとってまったくの浄土世界です。

 毎年五月の七日か八日ごろが私のところの衛生掃除に当たっている。それを区切りとして夏の暑いさかりを階下の画室で、またお盆過ぎになって文展の制作を機に二階の画室へ、これが私の上下画室の使用期になっております。冬は二階の方が陽あたりはよく、暖くもあり、夏は階下の涼しい木蔭の方が制作し易いからです。

 画室の至るところ、この隅には手控えの手帖が数冊、ここには子供ばかりをスケッチしたノートがか…

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