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ある女の裁判
あるおんなのさいばん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第一巻 創作」 學藝書林
2000(平成12)年3月15日
初出「解放 第二巻第二号」1920(大正9)年2月1日
入力者門田裕志
校正者Juki
公開 / 更新2013-07-02 / 2014-09-16
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 ああ! 漸く、ほんとにやうやく、今日もまた今のびのびと体を投げ出すことの出来る時が来ました。けれど、もう十一時半なんです。此の辺では真夜中なんです。そして、今日の裁判所での半日は、それでなくても疲れ切つてゐる私を、もうすつかりへとへとに疲らして仕舞ひました。
 出来るなら私は其処から真直ぐに家へ帰つて何も彼も投げ出して、寝床にころげ込みたいと思ひました。でも、南品川の叔父さんと叔母さんにお守りをされながら坊やが私を待つてゐるのです。私は虎の門で皆なと別れると真直ぐに新橋へ行つて坊やを迎へに急ぎました。
 大崎で電車を降りてから石ころの多い坂路を挽きにくさうにしてのぼつて行く俥夫のまるで走らないのを焦り/\しながらついて見ますと、坊やは大よろこびで私に飛びついて来ました。そして大元気でした。叔父さんも叔母さんもおとなしかつたと云つて喜んでゐました。可愛想に坊やも、私が毎日出歩いてゐるものですから、昼間はこの十日ばかりと云ふものちつとも私と一緒にゐられないのです。九時過ぎに、叔父さんに抱つこされて大崎まで送られて帰つて来ました。電車の中でいゝ工合に眠つて駒込で降りる時にもよく眠つてゐましたが俥の上で涼しいのでか眼をさまして、家まで来て蚊帳の中で一しきり遊んで今やつとまた眠つたところです。
 これから私も眠るのですけれど、体は非常に疲れてグタ/\になつてゐながら反対に頭は馬鹿にはつきり冴えてゐて何んだか急に眠れさうもないので、また、これからあなたに退屈しのぎに読んで頂く手紙を書かうと思ひ立つたのです。そしていゝ加減に頭をつかれさせたらいゝ気持に明日の朝までは何んにも知らずに眠れさうですから。
 けれど、頭を疲れさす為めに、と云つた処で、私は決して出鱈目を書くんぢやないんですよ。今日私の頭が何んの為めにこんなに冴え切つて、私を寝かさないかと云ふ事を書くのです。それは、今日私があの裁判所で傍聴した裁判に就いてです。そしてその被告人は女でした。けれども、私は特別にそれが女だつたからと云ふ興味だけで聞いたのではありません。また女だつたから特に面白いと云ふ種類のものでもありませんでした。私はその裁判される事柄それ自身よりは『裁判』と云ふものに興味を感じたのでした。
 あなたには、勿論こんな事はちつとも今更らしく私の話を聞くまでもなく充分承知してゐらつしやるでせう。だからこそ、始終区裁判所の傍聴をすゝめてゐらしたのです。その事はよくわかつてゐます。私をよく知つてゐて下さるあなたは、私が斯うして興味を持つに違ひないと云ふ事を、とうから御存知なんです。けれど、私がそれをどう云ふ風に観、どう云ふ風に聴きそしてどう云ふ点に多く興味を見出したかと云ふ事を知りたいとお思ひにならないでせうか? 私は勿論二人が一緒にゐるのなら、直ぐに、私の観た丈けのこと、聴いた丈けのこと、そして感じ…

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