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監獄部屋
かんごくべや
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本探偵小説全集11 名作集1」 創元推理文庫、東京創元社
1996(平成8)年6月21日
初出「新青年」1926(大正15)年3月号
入力者川山隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-01-01 / 2014-09-21
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

          (一)

 同じ持場で働いて居る山田という男が囁いた。
「オイ、何でもナ、近けえ内に政府の役人の良い所が巡検に来るとヨ」
「エッ、本当かイ夫りゃア、何時だってヨ」
「サア、其奴ア判ら無えがナ、今度ア今迄来た様な道庁の木ッ葉役人たア違うから、何とか目鼻はつけて呉れるだろう、何時も何時も胡麻化されちゃア返るんだが、今度ア左様は往くめエ、然し之で万一駄目だとなりゃ、此世は真暗闇だぜ」
「左様サ、何しろ役人位えにアビクビク為ねえ悪党揃だからナ、今迄の木ッ葉役人は瞞かされたり、脅かされたり、御馳走されたりで追ッ払われたんだが、東京から大所が来ると成りゃ、今度ア、其手じゃア往かねえ、何しろ一日でも早く来て、俺ッちの地獄の責苦を何とかして呉れなけりゃ、余命ア幾何もありゃしねえや」
「マア、厳重吟味して圧制な……」
 突然に近い所で、巨い声がした。
「何奴だア、何ヨグズグズ吐きゃアある、土性ッ骨ヒッ挫かれねエ用心しろイ」
 帝釈天と綽名のある谷口という小頭だ。
「仕事の手を緩めて怠ける算段計り為てけツかる、互に話ヨ為て、ズラかる相談でも為て見ろ、明日ア天日が拝め無えと思え」
 実際ウカウカして居ると容赦なく撲ったり、蹴倒したりするから、ダンマリで又労役に精を疲らす、然し鳥渡鵜の目鷹の目の小頭、世話役の目の緩むのを見て同様の会話が伝わる、外の組へも、又其外の組へも、悪事じゃ無いが千里を走って、此現場中へ只た一日で噂は拡まる。

          (二)

 現場といっても、丸ノ内のビルジング建築場でも、大阪淀屋橋架換工事場でも、関門連絡線工事場でも無い。往年、鬼怒川水電水源地工事の折、世に喧伝された状況を幾層倍にして、今は大正の聖代に、茲北海道は北見の一角×××川の上流に水力電気の土木工事場とは表向、監獄部屋の通称が数倍判りいい、此世からの地獄だ。
 此所に居る自分と同じ運命の人間は、大約三千人と云う話だが、内容は絶えず替って居る。仕事の適否とか、労働時間とか、栄養とか、休養とかは全然無視し、無理往生の過激の労働で、人間の労力を出来る丈多量に、出来る丈短時間に搾り取る。搾り取られた人間の粕はバタバタ死んで行くと、一方から新しく誘拐されて、タコ誘拐者に引率されてゾロゾロやって来る。
 三千人の内には、自己の暗い過去の影から逐われて自棄で飛込んで来るのもあるが、多くは学生、店員、職工の中途半端の者や、地方の都会農村から成功を夢みて漫然と大都会へ迷い出た者が、大部分だから、頭は相応に進んで居て、理窟は判って居ても、土木工事の荒仕事には不向だ。加之圧搾機械の様な方法で搾られるんでは、到底耐ったもので無い。朝、東の白むのが酷使の幕明で、休息時間は碌になく、ヘトヘトになって一寸でも手を緩め様ものなら、午頭馬頭の苛責の鉄棒が用捨なく見舞う。夕方ヤット辿り着く宿舎は、束…

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