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人を呪わば
ひとをのろわば
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」 作品社
2005(平成17)年9月15日
初出「探偵趣味」1926(大正15)年5月
入力者門田裕志
校正者湖山ルル
公開 / 更新2014-05-21 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「あの、もしもし」
 と女の声。
 振り返って見ると白い物! 女が軒下で招いている。
 午前三時! 深夜である。
「え、お嬢さん、何かご用で?」
 一條弘、若き新聞記者。年齢二十四。慇懃に訊く。
 場所は大阪。川口あたり。――
「一緒に連れてって下さいよ」
「だが、一体どうしたんで?」
「お願いですよ。……妹だと云ってね」
「ははん」と一條感付いた。こん畜生め! 地獄だな。
「ね、お願いですわ。助けると思って。……だって非常線が。……困っているのよ」
「よし来た」と義侠心を揮い起こす。「何んていうんだい、君の名は?」
「お君ってのよ。お願いだわ」
 で、一緒に行くことにする。
「もしもし」と二三人が呼び止める。
 私服の警官諸兄である。
「こんな夜更けに。女連れで……」
「やあ、今晩は」と一條弘。「何か獲物でもありましたか。……僕、記者ですよ。B新聞の」
 で、名刺を進呈する。
「やあ」と直ぐに仲宜くなる。「少し遅いじゃあありませんか。……で、連れのご婦人は?」
「ええ、僕の妹でね」
 警官諸兄クスクス笑う。
 ちゃあんと感付いているらしい。
 それも其筈さ、似ていないんだから。だが、警官と新聞記者だ。昔から親友ときまっている。
「いいから愉快にいらっしゃい」
「アッハハハ、左様なら」
 で、愉快にグッドバイする。
「君の家は何処なんだい?」
「××町よ、送ってって頂戴」
 恐しく穢いみじめな家。
「この二階なのよ。寄っていらっしゃい」
「うーん」
 と云い乍ら寄って了う。寝道具一式、鏡台一個。――商売道具だけは揃っている。
「もう遅いわ。泊まっていらっしゃい」
「だって無いぜ。金なんか」
「いい事よ。お礼だわ」
 で、二人は幸福になる。
            ×
 雀が啼いて朝になる。
「おい僕は失敬するぜ」
「いいじゃあないの、もっと在らっしゃいよ」
 地獄奴、一條に惚れたらしい。一條その頃は好男子だった。
 少し社のことが心配になる。女の顔をチラリと見る。まんざら踏めない顔でも無い。
「へ、かまうものか、休んで了え」
 休むことなんか珍しくない。
 で二人、復幸福。
 その翌日出社する。
 同僚が肘で横っ腹を蹴る。
「どうした――、え、昨日は?」
 一條、厳粛な顔をする。「うん、実は、腹痛でね」
「おい、部長に叱られるぞ」
「え[#挿絵]」と一條飛び上がる。「何か有ったのか? え、何か[#挿絵]」
 同僚、無言で新聞を拡げる。
 競争相手のA社の新聞!
 一号活字、二段抜。
「西警察署の大捕物」
 ――ちゃんと綺麗に素破抜かれている。
「一條君!」
 と部長の声!
 そうさね、まるで雷のように響いた。
 好漢一條氏の悄気方と来たら。
 直立不動。部長の前。
 部長美髯をひねり上げる。
「君、昨日は何うしたんだい?」
「え、実は、頭痛がして」
「…

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