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ハガキ運動
ハガキうんどう
作品ID47681
著者堺 利彦
文字遣い旧字旧仮名
底本 「現代ユウモア全集 第二卷 堺利彦集」 現代ユウモア全集刊行會
1928(昭和3)年10月20日
入力者Juki
校正者染川隆俊
公開 / 更新2011-06-04 / 2014-09-16
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 A 大隈侯が前の正月に受取つた年始の葉書は無慮十八萬五千九十九枚で、毎日々々郵便局から大八車で運びこんだと云ふが、隨分君エライもんぢやないか。
 B 大隈侯のエライのに異存はないが、郵便局から大八車は少しをかしいなア。
 A ナニそんな事はどうでもいゝ。計數の正確な所が俺の話の特色だ。
 B 成程、君は子供の時から數學ではいつも滿點を取つたと云ふのだね。
 A さうさ。俺が先達て先祖の計算をして、四十代前の俺の先祖の數が、一萬九百九十五億二千一百六十二萬五千七百七十六人だといふ莫大な數字を發表した時には、三十三萬三千三百三十三人の『中外』の讀者が一齊に僕の頭腦の明晰を感嘆したんだからね。
 B 『中外』の讀者はそんなにあるのかい。
 A ウン。ざつと三十三間堂の佛の數の十倍と見積つたんさ。
 B ぢや大隈侯の葉書の數も何かからの見積りだらう。
 A イヤ、あれは本統だよ君。ちやんと新聞に書いてあつた。それを精密に記憶してるのが即ち俺の頭腦の明晰なる所以さ。
 B さうかい。大隈侯ひとりの分が十八萬幾らあるとすれば、…………。
 A オイ君。そんな不正確な話はよしたまへ。十八萬五千七百九十九枚だ。
 B さうか。よし/\。大隈侯ひとりの分がそれだけあるとすれば、日本全國で使はれる年始の葉書は大變な數だらうなア。
 A さうさ。非常なもんだよ。君は好い事を聞いてくれた。俺の頭腦の明晰を一層確實に證據だてる機會を與へてくれた事を君に感謝するね。待ちたまへ。大正七年の一月十五日までに全國の郵便局で取扱つた年賀葉書の總數は三千四百五十六萬七千八百九十九枚といふ統計が示されてる。
 B 九十九枚とはさすがの君も少し窮したな。僕なら二千三百四十五萬六千七百八十九枚と算出するんだがなア。
 A 馬鹿を云つちやいかん。統計は神聖だ。勝手に算出して堪るもんか。それよりか君、俺の今度の年賀状の趣向を見せてやらう。
 B 又俳句だらう。先年電車のストライキのあつた時、あれは何とか云つたつけな、妙な俳句の樣なものを書いてよこしたぢやないか。
 A ウン、あれは斯うさ。『君が代の電車も止まる今朝の春』さ。
 B もひとつ、何とかいふ首つりの名句があつたぢやないか。
 A ウン、あれは俺のぢやないけれど、斯ういふんだ。『君が代の社頭の松に首くくり』さ。
 B それで君の今度のは?
 A 奇拔だよ。驚くな。口で云つたんぢや面白くないから書いて見せる。ソラ、これだ。
新玉の年立ちかへる旦かな    隱居
目の玉のでんぐりがへる旦かな    熊公
世界中ひつくりかへる旦かな    澁六
 B 何アんだ、隱居だの熊公だの澁六だのと。
 A 馬鹿だなア、澁六とは俺の變名ぢやないか。『立派なユーモリスト』『日本一のユーモリスト』として俺の盛名を知らないとは、親友甲斐のないにも程があるぢやないか。然…

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