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神楽記
かぐらき
作品ID47687
著者折口 信夫
文字遣い新字旧仮名
底本 「折口信夫全集 21」 中央公論社
1996(平成8)年11月10日
初出「実演による日本舞踊史の展望 プログラム」1949(昭和24)年7月
入力者門田裕志
校正者フクポー
公開 / 更新2018-05-04 / 2018-04-26
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

神楽と言ふ名は、近代では、神事に関した音楽舞踊の類を、漠然とさす語のやうに考へてゐる。さう言ふ広い用語例に当るものとして、神遊びと言ふ語があつたのである。一体日本古代の遊びとか舞ひとか言はれるものには、鎮魂の意義が含まれてゐる。「神遊」は、神聖な鎮魂舞踊とか、或は神自ら行ふ舞踊とか言ふ意味らしいのである。其神遊びの一種として、平安朝の中頃から宮廷に行はれ始めたのが神楽で、最初は「琴歌神宴」と称して、大嘗祭の一部分の、夜の行事から出たと言ふ説が、有力になつてゐる。
通説には、天岩戸の神出現に先立つて、天鈿女命の舞踊したのが起源だといふ事になつてゐるが、此は神楽よりも古い鎮魂祭の初めを説くものと思はれる。
恐らく宮廷以外の神社で発達したものが、天子を祝福する意味から、宮廷年中行事の一つに入りこんだものと思はれる。其にも順序があつて、最初に豊楽殿の清暑堂に行はれたのが、後、内侍所にも行はれることになつたらしい。天子の御為にするのであつた事は、庭上で之を奏してゐる間、御座に出御になつてゐた事からも察せられる。
主要な楽器は琴で、之に笛・篳篥が伴つてゐる。歌は本方・末方に分れて、所謂「掛け合ひ」の様式で謡ふのである。舞ひは、此神態の長と言ふ風に解せられてゐる人長がするので、其も主として、初めの「採物」に行はれる。採物は、其一つ/\が、此鎮魂呪術に用ゐる呪具だつたのだらう。其を携へて出て舞ふと、歌が之に伴ふ。之がすんで後、数回の勧盃がある。其間に古来のと今様のと、民謡に唐楽風の節をつけた、当時の歌謡曲の様なものが謡はれた。此が大前張・小前張である。其後は「朝歌」とも言ふべき星の歌・星の呪文・朝倉などがあつて、昼目・其駒などを含む雑歌でをさめることになつて居る。正式に之を行へば、宵から夜明けまで夜を徹したものだが、曲目も殖えて次第に其を本格的に行ふことが出来ず、時々の選択を加へて、抜きさしするやうにもなつたと見える。
神楽の主要部は、やはり採物にあるので、其後で、鎮魂を行つた慰労として出る酒を頂く。謝意を表する為の芸廻しとも言ふべきものが、其々の才技で召された男たちによつて行はれ、其後なごり惜しみして別れて行く。其朝の部に属するものが分化して、「雑歌」を生じたと言ふことになるのであらう。今度催される「其駒」なども、雑歌のをさめに謡ふことになつてゐた。朝の神あげで還つて行かれる神に別れを惜しむやうな感情が、此部の歌には全体として現れてゐるのだが、朝は日神が来臨するのに、之になごり惜しみすることの矛盾を感じて、こゝで一しきり悲別とも讃歎ともつかぬ歌群が出来た訣である。「さゝのくま ひのくま川に駒とめて(昼目)」と「其駒ぞや 我に草こふ」とを比べて見ても、同じ目的の分化したことは窺はれるのである。
神楽が宮廷に栄えて後、宮廷以外の地方の社で行ふものを、里神楽、夏の祓へに関聯した…

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