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春日若宮御祭の研究
かすがわかみやおんまつりのけんきゅう
作品ID47688
著者折口 信夫
文字遣い新字旧仮名
底本 「折口信夫全集 21」 中央公論社
1996(平成8)年11月10日
初出「能楽画報 第三十五巻第四号」1940(昭和15)年4月
入力者門田裕志
校正者しだひろし
公開 / 更新2011-03-26 / 2016-04-14
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

おん祭りの今と昔と

春日のおん祭りに関しては、一番参考になるのは「嘉慶元年春日臨時祭記」のやうです。この本は南北合一の頃の記録であるが、元々若宮祭りの記事ではありません。所が、これが臨時祭りの記録であつたのかといぶかるほど、只今の若宮祭りの行事と、ある点までぴつたりと合つてゐる。役々の名前なども大方合つてゐる。其より昔の臨時祭りは、ずつと古い記録で見て、嘉慶記の様な風のものではないだらうかと思はれる程だが、事実さう書いてあるのだから、此頃の事として間違ひはあるまい。今行はれてゐる若宮祭りは、此臨時祭記によつて組織し直したものではないかと思はれるほど、よく似てゐる。
しかし、同時に春日祭り――普通、申祭りと通称する――も、今行はれてゐる若宮祭りと似たところがあります。今の若宮祭りといふのは、春日祭りと臨時祭りとを突き交ぜたものだといへば、大体さうした疑問は釈ける様な気がします。若宮祭りがある時代衰へたのを復興する時に、さうしたともとれるが、どうも春日祭りとしては、却つて此方が盛んであつたらしいから、其について又色々手入れをする機会があつたのではないかと思はれます。一つは此御祭は盛んは盛んでも、本宮の二度の恒例臨時の祭りと比べて、本質としての重要性が軽いとでも言ふか、まあそんな事から、時々延期したり、延期したまゝ挙行せずにすました年もあり、又もし行つても極々内々ですました年も度々あつたらしく、頻々と間隔が出来て居ります。勿論室町以後の記録です。其以前にもさういふ事がなかつたとは言へないとすれば、毎年行つて居なければ段々変形し、忘却して来る様な事はあつたといへます。
今度、二度目に若宮祭りを拝しまして、先に感じなかつたことを申せば、大乗院寺社雑事記を見ますと、毎年の恒例だからではありませうが――記事は頗、簡単である。けれども時々参考になるいゝ記事がある。譬へば、
祭礼行烈次第、別会五師以中綱進之。小番取進之――尋尊大僧正記(享徳三年十一月廿六日)。
同様な文が後に見える。譬へば、長禄二年十一月廿七日の所に、
自別会五師方行烈次第以中綱進之。小番取進之。立紙ニ書、之本式也。但近例折紙ニ書之。馬長頭 弁法印・善定房法印権大僧都・宗禅房権少僧都・定清大法師・懐兼大法師。田楽頭 琳舜房権律師・浄真房擬講。流鏑馬……自余如例也。
これらによれば、田楽は興福寺から出すものである。さうして五師から、其々田楽頭の出ることも知れる。若宮祭りに年地を定める五師の坊から、若宮祭りをまかなふのであつて、本座新座の田楽も、五師の坊の監督で出る猿楽も、この五師の坊に関係はあるが、田楽から見ればずつと交渉が薄くなる。五師の坊中心に見れば、田楽はうちの者、猿楽はよそから来るといふやうな様子がみえる。
若宮祭りは若宮の神官が行ふのであるが、所謂「おんまつり」の行列は、五師の坊が行ふものというてよ…

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