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同胞沖縄の芸能の為に
どうほうおきなわのげいのうのために
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「折口信夫全集 21」 中央公論社
1996(平成8)年11月10日
初出「宮古島縁起プログラム」1950(昭和25)年6月
入力者門田裕志
校正者沼尻利通
公開 / 更新2013-06-12 / 2016-04-14
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


渡嘉敷守良君が戦争中を無事でゐたことは、何にしても、琉球芸能にとつて幸であつたと思ふ。戦争前に新垣松含が亡くなり、又最幸福さうに見えて、定めて円満な晩年を遂げるだらうと思つてゐた玉城盛重老人が、国頭のどこかの村で、斃れ死んだと聞いてゐる。そんな中に、恰も琉球芸能の命脈を、この程度につゞけて行つてくれると言ふことは、芸能人にとつて、どれ程喜んでよい為事か訣らない。渡嘉敷君は正にその位置にゐる訣だから、十分その名誉と、更に大きな責任を負うてゐる事を自覚してもらひたい。渡嘉敷君は特に女踊りの達人であるが、年輩からして、老人踊りを踊つても如何にも優雅な味を示すやうになつて来た。舞や劇に優れてゐる事に、此人の才能を尊敬するよりも、まづ第一に、私などは、もつと此人の人間の優秀なのを知つてゐる。芸人らしくない、人間のよさにおいては、前にあげた二人よりも出来た人間だと思つてゐる。唯それだけに、人のよさから来る意志の弱さのあるのを、歎かずにはゐられない。あれだけ力を持ちながら、まゝ自信を失ふことがあるのではないか、と言ふ気がする。又その周囲にゐる人間に対しても、もつと目を[#挿絵]る必要がある。さうした人の不心得が、渡嘉敷君の欠点として、人に写つて来る。それよりももつと惜しむことは、男子の弟子を育てるだけの意力を欠いてゐる点である。沖縄の踊りは、ちつとも女性の力に依頼することなく、永い歴史を経てゐる。女踊りにしても、女性の参加にたよることなく発達して来ただけに、その良さも、すべて男性的な点にある。女性が琉球踊りに不適当なことは、尾類の踊りを見ても訣る。守良君がその名の如く、沖縄の踊りの良質を守り遂げようとするならば、もつと男性の踊り手を養成してくれなければいけない。又沖縄の有志の方々も渡嘉敷ばかりに、芸能の苦労をさせると言ふことはない。あなた方はもとより、あなた方の子弟、及びそのほかの人々に踊りの教習を受けさす気になつてほしい。これだけは、何よりも先に気を揃へてしなければ、沖縄の踊りは亡びる、の一途を辿る外にない。あたた方に、あなた方の嫌ふことを強ひるのではないから、私は楽しい気持ちで、この提案をあなた方にする。
まづ渡嘉敷に男弟子あれ。
これが渡嘉敷君並びに沖縄同胞の方々に言ふ第一のことばである。



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