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仲々死なぬ彼奴
なかなかしなぬあいつ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「「探偵」傑作選 幻の探偵雑誌9」 光文社文庫、光文社
2002(平成14)年1月20日
初出「探偵」駿南社、1931(昭和6)年7月号
入力者川山隆
校正者伊藤時也
公開 / 更新2008-12-06 / 2014-09-21
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

        一

 大熊老人にとって、凡そ不思議な存在は、少年喜助であった。
 喜助君なら、今でも一緒に抱いて寝てやってもよいと思っているのであった。今年廿二歳になって、たいへん大人びてきた喜助君の方でも、抱かれることには大いに賛成であろうと思われる。
 大熊老人といえば、あの人かと誰でもがすぐ思い出すほどの金満家[#ルビの「ミリオネア」は底本では「シリオネア」]であった。八十二歳になるというのに、腰一つ曲らず、流石に頭髪だけは霜のように真白になっては居るが、肉付は年増女房を思わせるほど豊満で、いつも赭顔をテラテラさせているという、怖るべき精力老人であった。
 財産は五億円だとも云い、一説にはそれほどは無いが、すくなくとも一億円は越えているだろうと噂された。政党、ことに××党にとってこの老人は文字どおりの弗箱であったからして、大臣になったことは無いが、その巨大なる財力は常に到るところで物を言った。現に××内閣で帆をあげている大蔵大臣の如きは、実力に於て首相を凌ぐと取沙汰されているのも、実はといえば、この大熊老人が特に大蔵大臣の尻押しをしているからであった。大熊老人の鼻息の荒いもう一つの理由は、老人は三十年此の方、独身であり、そのうえ老人には一人の子供も無論孫も無い、全くの孤独者であったことである。自然、老人は我儘にもなり、ヒステリーにもならざるを得なかった。
 老人には子供はないけれども、親戚は随分と多かった。彼等は常に老人の周囲に出没して、何やかやと世話を焼きたがった。中には親戚というには、余りに縁の遠いものまで交っている始末であって、そういう者に限り、特に親切を老人に売りこみたがった。実際彼等多くの親戚が、この気むずかし屋の癇癪もちの動物的な汚れが浸みこんでいるように見える老人の周囲に出没するのは何も心から、この一人ぽっちの老人を慰めてやろうという意志から出たものではなく、なんとかこちらの親切を認めて貰って、遺産分配の比率を高くして貰おうという魂胆から出発していることは明白であった。老人の気むずかしくなるのも、こうした一面から見て無理のないことであった。
 大熊老人は、今までに随分沢山の人を世話したけれど、どれも老人の気に入るようなのはなかった。唯一人、それは唯一人だけ、前に言った喜助だけが気に入りであった。
「お前は一生懸命に勉強して、豪いものになるんだぞ。お金のことなんか考えずに、いいと信じたことをドンドンやってのけなさい。そうすると、お金なんか向うの方から自然に飛びこんで来る。それには若いうちにウンと苦労をするに限る。苦労を積まない人間は駄目じゃ。人から貰う金は、自分を堕落させるばかりじゃ。このわしはナ、お前が大好きじゃから、ある程度の世話はしてやるが、わしの財産は一文も分けてはやらぬぞ。わしはお前に依頼心を起して貰いたくないのじゃ。お前をデク…

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