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殺人迷路
さつじんめいろ
副題07 (連作探偵小説第七回)
07 (れんさくたんていしょうせつだいななかい)
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「「探偵クラブ」傑作選 幻の探偵雑誌8」 光文社文庫、光文社
2001(平成13)年12月20日
初出「探偵クラブ」1932(昭和7)年12月号
入力者川山隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-05-10 / 2014-09-21
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

   意外な夢遊探偵

 一方、星田代二と別れた雑誌記者の津村は、殆んど逃げる様にして新橋駅構内を出た。そうして何処をドウ通り抜けて来たか、わからないくらい混乱しいしい銀座の左側の通りをセッセと歩き出した。
 けれども、それから人ごみの中を二三百歩ばかり一直線に歩いて来ると彼はハタと足を佇めた。両手をポケットに突っ込んで、うなだれたままホッと溜息をした。殆んど不可抗的な力に直面させられた気持で……
 ……俺は星田を救わねばならぬ。……自分の先輩とも、兄とも、又は一種の保護者とまでも感じて、尊敬していた星田を、鉄のバイトみたようにシッカリと掴んでいる「完全な犯罪」の機構の中から救い出さねばならぬ立場に現在タッタ今置かれて居るのだ……こうして銀座の人ゴミの中をタッタ一人でテクテク歩きながら……
 と云ったような感じを受けると、気の小さい彼は、殆んど身動きも出来ない気持のまま、又もソロソロと歩き出したのであった。
 ……誰も加勢して呉れる者は無い。……否……タッタ一人居る。
 ……村井……村井だ。……
 そう気が付いた時に彼は又も脊髄までドキンとさせられながら立佇まった。
 彼は眼を一パイに見開いた。唇をワナワナと震わした。今までよりも更に数等深い鋭い恐怖に襲われつつ、白昼の夢遊病者のようにノロノロと自分の周囲を見まわした。
 其処はちょうど資生堂の横町らしかった。左側の横町一パイに重なり合って行列していたタクシーの先頭の一つが彼に向って手をあげて見せた。彼はフラフラと其の中へ転がり込んだ。
「日本橋の二〇二〇三……じゃない。本石町の医療器械屋へ……イヤ……本石町へ行けばいいんだ……」
 と殆んど夢うつつの様に彼がつぶやいたのと、自動車が動き出すのと殆んど同時であった。彼はクッションのマン中にドタンと尻餅を突いて引っくり返りそうになった。
「……村井だ……村井だ……」
「完全な犯罪」の側杖を喰って、星田以上の恐怖に打ち拉がれていた彼は、最早、自分の意志を無くした空っぽの人形として動いているだけであった。ただ頭の片隅に残っている疑惑の指さし示すがままに、そっちの方角へヒョロヒョロと行って見るよりほかに、何等の判断力も、自制力も持たなくなっている彼であった。……しかも、そんなにまで打ち拉がれた夢遊病者同様の人間が、時と場合によっては、どんなに恐ろしい事を仕出かすものか……超人的な頭脳と意志を持った人間に取って、ドレ位厄介極まる苦手として立ち現われて来るものか……という事は、流石の「完全な犯罪の計画者」も予算して居なかったのではあるまいか。津村は人間最高の智力と、意力によって計画された「完全な犯罪」の機構の中からフラフラと洩れ出した無力な人形ではなかったろうか……何時、何処へ行って、ドンナ事を始めるかわからない……。
「アッ。此処だ」
 と突然に叫んだ津村は、それでも五…

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