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「オルジェル伯爵の舞踏会」
「オルジェルはくしゃくのぶとうかい」
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「堀辰雄作品集第四卷」 筑摩書房
1982(昭和57)年8月30日
初出「婦人サロン 第一巻第三号」1929(昭和4)年11月号
入力者tatsuki
校正者染川隆俊
公開 / 更新2011-04-08 / 2014-09-16
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 これはレイモン・ラジィゲの小説だ。私はこの小説について語る前に、まづ作者ラジィゲについて一言したい。ラジィゲは一九二三年に二十で死んだ詩人だ。今生きてゐても私より一つ年上なだけである。そしてこの小説は十九で書いたのだ。彼はランボオのやうな「恐るべき子供」だ。しかし彼がランボオよりもつと驚かせるのは、さういふ「恐るべき子供」に特有な異常さが、彼には一寸も無いことだ。ラジィゲの才能は通常な風をしてゐるのだ。これはより以上に驚くべきことではないか。
 ラジィゲは死んだが、それと同時に、彼の生涯が始まつたと言つてよい。何故なら、彼は三册の著書を殘したからだ。一卷の詩集と二つの小説その小説の一つの此の「オルジェル伯爵の舞踏會」は彼の死んだ病院の一室で校正されたものだ。
 この小説は徹底的に心理解剖で行つてゐる。ラジィゲは「小説はロマネスクな心理學だ」とさへ言つてゐるのである。
「オルジェル伯爵夫人のそれのやうな心の動きは時代遲れなのだらうか? このやうな義務と淫蕩との混合は、今日では殆ど信じがたく思はれるかも知れない。しかし、それは我々が純潔さと云ふものにあまり注意を向けてゐないからではないか? 純潔な魂の無意識的な作用は、惡癖の組み合せよりずつと特異な場合がある。」
「舞踏會」はかかる書出しをもつて始まるのだ。オルジェル伯爵夫人は或る地方の名家に生れた。彼女はマオと言つた。彼女は野生の葛のやうに言つた。マオは十八の時アンヌ・ド・オルジェル伯爵と結婚した。彼女は彼女の夫を狂はしいまでに愛した。彼女の夫は、その反應として、彼女に大きな感謝と友情とを示した、彼自身さへそれを愛だと思つた位の。そして、衰へかけてゐたオルジェル家もアンヌとマオの代になると、急に再び活氣づいてきたのである。靜かな日々があつた。
 ところが或時から、フランソアと云ふ青年がオルジェル家に出入しはじめた。フランソアは聰明で純潔な青年だつた。彼はオルジェル伯爵夫人を愛してゐた。しかし彼自身はさう考へることを恐れてゐた。そのことがオルジェル夫人に氣に入らないだらうと思ふほど夫人を愛してゐたからである。
 ではオルジェル伯爵夫人の方は? 彼女はよく自動車に乘つて、彼女の夫やフランソアと一緒にマルヌ河へ散歩に行つた。その散歩から、彼女はいつも少し發熱して歸つてきた。彼女の夫が彼女を抱擁するとき彼女は非常に悲しく感じた。彼女はそれに單純な原因しか見出さなかつた。彼女は彼女自身を、花が好きなのでそのために逆上する人間に比較した。花のそばで眠らなければいいのだ。それも彼女には自分の不快が我慢出來るやうに思はれたからだ。しかし花の匂との比較は間違つてゐた。何故なら、彼女の不快は頭痛ではなく微醉であつたのだ。
 このやうにマオとフランソアとの戀は、お互に知らずに、誰からも知られずに、そしてまた彼等自身にすら氣づかれず…

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