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Ein Zwei Drei
アイン ツヴァイ ドライ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「堀辰雄作品集第四卷」 筑摩書房
1982(昭和57)年8月30日
初出「高原 第一輯」1946(昭和21)年8月20日
入力者tatsuki
校正者染川隆俊
公開 / 更新2010-04-02 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

          1

 本輯に「栗鼠娘」を書いてゐる野村英夫は、僕の「雉子日記」などに屡[#挿絵]出てくる往年の野村少年である。冬になるとよく病氣をしてゐたが、そのころはいかにも牧童なんぞになつたら似合ひさうな少年で、死んだ立原道造なども弟のやうにかはいがつてゐたものだ。が、この少年、おとなしさうに見えて、なかなかの強情つぱりで、それには立原もよく手こずり、「このごろ野村君は、堀さんのいふことなら何んでもきくが、僕のいふことなんぞきいてくれなくなつた」と、さも不平さうにしてゐた。
 いつまでももう野村少年でもあるまいが、――その野村はいつかフランシス・ジャムの詩を譯したり、自分でも詩を書いたりするやうになつた。さうしてこんどはこんな小説まがひのものまで書いた。野村はいまでも鷄小屋を繕つたり、庭の椅子をつくつたりすることが好きらしい。なかなか器用なことをやるな、とおもつて感心してゐると、ときどきとんちんかんなことをしてゐる。こんど彼がはじめて書いたこの小説まがひのものも、どこかそんな野村式のところがある。まあ、しやれていへば、稚拙な味とでもいつたものか。この作品をもうすこし小説らしいものにしようと思へば、前半では森のなかで娘が栗鼠などと遊ぶところをもうすこしファンタスチックに描き、又、後半では母娘三人の田舍暮らしにもうすこし日本の田舍らしい佗びしい感じを添へればいいのだ。だが、こんな風に、なんの屈託もなく、すうつと書けてしまつたやうな最初の作品は、あんまりいぢくらせたくないので、書き直させたりなんかするのは止めにした。

          2

「死の影の下に」を書いてゐる中村眞一郎は、野村がジャケット姿で鷄小屋や椅子などをつくつてゐる間、いつもヴェランダの籐椅子の上でフランスやドイツの本ばかり讀んでゐるやうな男だ。この冬もずつと僕の隣り村で暮らしてゐて、ときどき遊びにくるが、そのときはいつもその一里ばかりの道をリュックを背負つてフランスの小説など讀みながらぶらぶらやつて來る。それくらゐの本好きだから、實にいろんなものをよく讀んでゐる。彼の話をきいてゐるだけで、僕までこの頃、いつぱしフランスの新しい詩や小説の通になりだした。彼はいまジャン・ジロオドウに夢中になつてゐて、その小説を勉強がてら飜譯してゐるらしい。……ある日、その中村が背なかのリュックから、大きな紙包をとりだして、僕のところに預けていつた。それは彼のはじめて書き上げた小説だつた。四百枚もある。僕はそれを三日もかかつて讀み上げた。この小説についての抱負は中村が自分で書くはずだが、いかにも若々しい作品で、まだ下手くそなところも大ぶ目につくが、最後の方になればなるほど面白くなる。そこまでいつて、はじめて全體の骨組もはつきりと分かつてくる。そんなところ、なかなか小癪だ。こんど發表した分は、全體で三章あ…

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