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「マルテの手記」
「マルテのしゅき」
作品ID47966
著者堀 辰雄
文字遣い旧字旧仮名
底本 「堀辰雄作品集第五卷」 筑摩書房
1982(昭和57)年9月30日
初出「東京朝日新聞」1940(昭和15)年2月16日
入力者tatsuki
校正者染川隆俊
公開 / 更新2010-12-26 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 丁抹の若い貴族マルテ・ラウリッツ・ブリッゲがその敗殘の身をパリの一隅によせ、其處でうらぶれた人々にまじつて孤獨な生活をはじめる。
 第一部の前半は、先づ、マルテをとりかこむパリの怖ろしい印象でうづまつてゐる。
 ボオドレエル、死、憑かれた男、盲目の物賣り、古い家の癩病やみのやうな壁、それからマルテの病氣、いよいよつのる不安……
 マルテはかかる不安を告白したのち、幼年時代の思ひ出を、彼の生の唯一の支へであるかのやうに喚びよせる。スカンヂナヴィアの物靜かな風物、古い館、夭折した少女インゲボルク、奇妙な二三の插話、母の死、謎のやうなアベロオネ……
 この手記の第一部は、かかる失意の人マルテが昔の人間のした立派な仕事、或博物館で見出した數枚のゴブラン織への讚歎によつて終る。
 第二部はただちにそのゴブラン織を熱心に見てゐる少女達の上に開かれる。が、すぐ幼時の追憶がマルテをとりかこむ。
 再びスカンヂナヴィアの田舍シュウリン家への奇妙な訪問、アベロオネとその父、彼の父の死、――突然、マルテは身ぢかに死の恐怖を感じだす。再び怖ろしいパリのすがた。
 リルケは「生」の問題を最後まで考へ、最後まで見究めんとして彼の分身マルテをその「生」の最もぎりぎりのところ――殆ど「死」の傍――に終始立たしめた。あまりに弱い神經の持主マルテにはこれ以上殆ど生きがたいやうにさへ見える。
 しかしリルケは「生きることの不可能なことを殆ど證明するに了つたかに見えるこの本は、この本自身の流れに逆ひつつ讀まれなければならない」と友人への手紙にいふ。



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