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愛読作家についての断片
あいどくさっかについてのだんぺん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「平林初之輔探偵小説選Ⅱ〔論創ミステリ叢書2〕」 論創社
2003(平成15)年11月10日
初出「新青年 第六巻第一〇号」1925(大正14)年8月号
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-12-12 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 私は、探偵小説は、手にはいるものは、見さかいなく、好きで読みますけれども、誰と言って、特別に好きな作家は、まずありません。
 コナン・ドイルは、今でもそうとう面白く読めますが、いささか千遍一律なのが鼻につきます。数ヶ月前、本誌〔『新青年』〕の増大号にのった長編小説などは、どうも感心しませんでした。ことに、印度あたりから、超自然の力をもった僧侶をひっぱりだしてきて手品の種を明かすなどは、全くまたかという感じしか与えません。印度といえばコナン・ドイルの印度に関する知識はよほど深いようであるが、あまりに、それが神秘化されすぎていて、読者にアナクロニズムの幻覚を起こさせるきらいがあります。
 フランスのある批評家(たしかフランスだと思ったがまちがっているかもしれない)が、コナン・ドイルの refugee という、フランスのユグノーのことを書いた小説を批評して、コナン・ドイル、ひいてはイギリス人がフランスの歴史をまるで知らぬといって批難しているのを見ましたが、狭い海一つへだてたフランスの歴史でさえそうだとすると、東洋のことに対する西洋人の知識などはどうも怪しいと判断するのが当然でありましょう。そこへ、もってきて、例のもっともらしい神秘化が行われるのだから、鼻につくこと一通りでありません。
 とはいえ、コナン・ドイルは中々の学者であります。医者、人類学者、各種の収集家らが主人公になっている場合――ホームズその人が常にこれらを兼ねている共通の主人公であるが――氏の博識は、大抵の読者を驚かせるに足ると思います。
 推理の算数的的確さと、それを潤飾する博識、これがコナン・ドイルのしんしょうであります。
 ポーに至ると、闇の夜に鬼火を見るような物凄さがあるかと思うと、それと全く反対した、幾何学者のような一面もあるように思われますが、どういうものか、私にはそれが不自然でなく思われます。彼のアブノーマルはかえって自然な感じを与えます。彼が、「仮死」の講義を長々とはじめても、鼻につくようなことはなく、かえって愛嬌に思われますし、どんなに奇々怪々な物語を――たとえば「黒猫」とか「蛾」のような物語をかいても、やはり自然という印象を与えます。コナン・ドイルの神秘は理知で組み立てた神秘ですが、ポーの神秘は理知と融合しています。
 けれども、私は、ポーの作品を、今日のレベルから見て、そんなに優れているとは思いません。彼にはあらゆる探偵小説のシャルム〔魅力〕があると思いますが、それはまだ十分に発育していないと思います。芸術品として不完全だというのではありません。珠玉のごとき完成味をもったものが沢山あります。ただ完全ではあっても、まだ十分に進化していないというのであります。今日の作家の誰よりもポーがすきだというような批評をききますが、この批評を文字通りに解するならば、私は、その批評家を、一種の個…

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