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少年探偵呉田博士と与一
しょうねんたんていくれだはかせとよいち
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「平林初之輔探偵小説選Ⅱ〔論創ミステリ叢書2〕」 論創社
2003(平成15)年11月10日
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-01-28 / 2014-09-21
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

第一夜

「お父さん、今日は何か変わったことがあったかい?」
「また、六つになる子供がさらわれちゃったよ。これで去年から三度目だ。お前なんかも用心せんと危ないよ。今日さらわれたのは、お前が行ってる学校の正門の筋向かいの文房具屋の子供なんだよ」
「馬鹿にしていらあ、僕なんかもう中学の三年じゃないか、もう二ヶ月もたったら四年で、来年は高等学校へはいるんじゃないか。だけれど、ほんとうに、あの文房具屋の子供がさらわれちゃったのかい? あの子は録ちゃんといってね、可愛い子だったよ」
「ほんとうだとも、明日の新聞にはまた大きくでるよ。係りの者は今ごろまだてんてこまいで忙しがってる時分だ」
「やっぱり警察じゃまだわからんのだねえ。警官なんてみな木隅の坊ばっかりだね。今度で三度目じゃないか、しかも、同じ町内で同じような事件が三度も起こっているのに、それで目星がつかんなんて。僕もちっと犯罪学の勉強でもして、警察に教えてやりたいな。歯がゆくってしょうがないもの」
「ところが、今度は犯人はわかってるんだよ。まだつかまらないが明日までにはつかまるにきまってるんだ」
「へえ、そりゃえらいね、犯人は誰だっていうの?」
「あの文房具屋から四軒目のところに、そうだ、お前の学校の物理学教室の真ん向かいにあたるところだ、あそこに大きなお邸があるだろう?」
「うん、あるある。あれは呉田博士の家だね。こないだ学校で、お話をきいたことがあるよ。不良少年の話をね。中々えらい先生だよ。いま不良少年を一人養って感化しているんだってねえ?」
「その不良少年がやっぱり、今日行方不明になったっていうんだよ。それで、てっきりそいつが、あの子供を誘拐したんだと警察では目星をつけたわけなんだよ」
「そういえば、今日物理の時間がはじまる前にね、その不良少年らしい男が呉田博士の家から走って出ていったのを見たものがあるんだよ。ほら、いつか家へ遊びにきた志村君ね。あの男がそう言ってたよ」
「え、そりゃ大変なことをきいたね。でその不良少年は文房具屋の子供をつれて出たんかい?」
「ところがそうじゃないんだよ。ひとりで走っていったって志村君は言ってたよ。それに、呉田先生のところの女中さんがうしろから見ていたと言ってたよ」
「何? 博士の家の女中さんが見ていたんだって? そんなはずはない。博士の家から、いつの間にか、その男が家人の眼を盗んで失踪したって届け出があったもんだもの」
「だって、志村君はそう言っていたよ。女中さんがね門のところから半分顔を出してね、その男が見えなくなるまで見送っていたと言っていたよ。それに、その男も二三度うしろを振り向いたが、女中さんは別にとめた様子もなかったと言ったよ。それで、志村君は、何か博士の家でその男を使いにやったのだろうと思ったなんて言ってたよ。僕はよくおぼえているよ」
「妙だな、そりゃ何時頃だい…

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