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青蛙神
せいあじん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集」 学研M文庫、学習研究社
2002(平成14)年3月29日
初出「舞台」1931(昭和6)年7月~8月号
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2009-01-15 / 2014-09-21
長さの目安約 67 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 第一幕の登場人物
李中行
その妻 柳
その忰 中二
その娘 阿香
高田圭吉
旅の男
[#改ページ]

第一幕

 時は現代。陰暦八月十五日のゆうぐれ。
 満州、大連市外の村はずれにある李中行の家。すべて農家の作りにて、家内の大部分は土間。正面には出入りの扉ありて、下のかたの壁には簑笠などをかけ、その下には鋤またや鍬などの農具を置いてあり。その傍らには大いなる土竃ありて、棚には茶碗、小皿、鉢などの食器をのせ、竃のそばには焚物用の高粱を[#「高粱を」は底本では「高梁を」]束ねたるを積み、水を入れたるバケツなどもあり。よきところに木卓を置き、おなじく三四脚の木榻あり。下のかたには窓あり。上のかたは寝室のこころにて、ここにも出入りの扉あり。家の外には柳の大樹、その下に石の井戸あり。うしろは高粱の[#「高粱の」は底本では「高梁の」]畑を隔てて、大連市街の灯が遠くみゆ。
(家の妻柳、四十余歳。高粱を[#「高粱を」は底本では「高梁を」]折りくべて、竃の下に火を焚いている。家内は薄暗く、水の音遠くきこゆ。下のかたより家の娘阿香、十七八歳、印刷工場の女工のすがたにて、高田圭吉と連れ立ちて出づ。高田は二十四五歳、おなじく印刷職工の姿。)
高田 (窓から内を覗く。)阿母さんは火を焚いているようだ。じゃあ、ここで別れるとしよう。
阿香 あら、内へ這入らないの。
高田 まあ、止そう。毎晩のように尋ねて行くと、お父さんや阿母さんにうるさがられる。第一、僕も極まりが悪いからな。
阿香 かまわないわ。始終遊びに来るんじゃありませんか。お寄りなさいよ。
高田 始終遊びに来る家でも、この頃はなんだか極まりが悪くなった。まあ、帰るとしよう。
阿香 いいじゃありませんか。(袖をひく。)今夜は十五夜だから、一緒にお月様を拝みましょうよ。
高田 (躊躇して。)それにしても、まあ、ゆう飯を食ってから出直して来ることにしよう。
阿香 じゃあ、屹とね。
高田 むむ。(空をみる。)今夜は好い月が出そうだ。
阿香 お月様にお供え物をして待っていますよ。
(高田はうなずいて、下のかたへ引返して去る。阿香はそれを見送りながら、正面へまわりて扉を叩く。)
柳 (みかえる。)誰だえ。お父さんかえ。
阿香 わたしですよ。
柳 戸は開いているよ。お這入り……。
阿香 (扉をあけて入る。)あら、暗いことね。まだ燈火をつけないの。
柳 いつの間にか暗くなったね。
阿香 町の方じゃあ、もう疾うに電燈がついているわ。
柳 町とここらとは違わあね。あかりをつけないでも、今にもうお月様がおあがりなさるよ。
阿香 それでもあんまり暗いわ。
(阿香は上のかたの一室に入る。柳は竃の下を焚きつけている。表はだんだんに薄明るくなる。下のかたよりこの家のあるじ李中行、五十歳前後、肉と菓子とを入れたる袋を両脇にかかえて出づ。)
李中行 そろそろお…

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