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墓地の殺人
ぼちのさつじん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「小酒井不木探偵小説選 〔論創ミステリ叢書8〕」 論創社
2004(平成16)年7月25日
初出「子供の科学 七巻一~六号」1928(昭和3)年7~12月
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-09-30 / 2014-09-21
長さの目安約 50 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

第一回




 皆さん、これから申しあげる探偵談は、少年科学探偵塚原俊夫君が、自分でもいちばん骨を折った事件の一つだと申しているほど、面倒な殺人事件であります。
 そもそも犯罪探偵の際、いちばん難しいのは、殺された人の身元の分からぬ時です。明らかに他人の手によって死に至らしめられた死体でも、その死体が何の誰だということが分からなくては、犯人捜索の手のつけようがありません。ですから、これまで、被害者の身元不明の事件が未解決のままに終わった例は甚だ多いのであります。
 身元が分からねば、その人がどういう生活をして、どんな人と交際していたかを知ることができません。たとえ有力な容疑者を捕らえても、その本人が白状しないかぎり、身元の分からぬ者を殺したことによって刑罰に処することはできにくいのです。
 ですから、殺人死体を取り扱う際には、探偵たるものはまず第一にその人が誰であるかを定めます。そうして、それが決まってから犯人の目星をつけにかかるのですが、さて、時として、犯人の身元が容易に分からぬ場合があるのです。そういう際に探偵は、人知れぬ苦心をしなければなりません。
 これからお話しする事件においても、殺された人の身元が知れにくかったため、俊夫君が非常な苦心をしたのです。
 皆さんもご承知のとおり、俊夫君はしばしば実験室の中で事件を解決しますが、死人の身元を検べるためには、時として方々へ出かけていって、色々な人に尋ねなければなりません。この事件でもそれがかなりに俊夫君の身体にこたえ、さればこそいつもこの事件の話が出るごとに「骨が折れた」という嘆息をもらすのであります。



 皆さんは、たぶん上野公園の高台から、浅草方面一帯をご覧なさったことがございましょう。観音堂すなわち金龍山浅草寺から、だんだん眼を左の方へ移していきますと、眼界の尽きようとするところに、三つのあまり大きくない寺院が並んで立っております。
 これは、旧幕時代に、将軍さまの御声がかりで建てられたという由緒のある寺でありますが、明治時代になってからは、さほど内輪が豊かでなくなり、かなりに荒れてきたのであります。宗派は浄土宗でありますが、住職は三ヶ寺とも度々代わります。でも、檀家の墓をあずかっているために、どうにかこうにか持ちこたえてはいけるようです。
 関東の大震災の際もこの三ヶ寺だけは不思議に焼けのこり、付近の罹災民の避難所になりました。その後この付近は復興も遅々として進まず、寺はいよいよ荒れていくばかりですが、今は三ヶ寺とも、相当な住職と寺男とが住って、檀家の評判もよいということであります。
 三ヶ寺ともSという街に面しているのでして、向かって右から、法光寺、東泉寺、福念寺の順に並んでおります。表通りにはそれぞれ山門が立っておりますが、本堂の裏には同じく三ヶ寺とも広い墓地があり、その墓地はMとい…

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