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玉振時計の秘密
たまふりどけいのひみつ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「小酒井不木探偵小説選 〔論創ミステリ叢書8〕」 論創社
2004(平成16)年7月25日
初出「少年倶楽部 一四巻七号」1927(昭和2)年7月
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-09-26 / 2014-09-21
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 これまで塚原俊夫君の取り扱った事件の中には、ずいぶん複雑なものもありましたし、また、きわめて簡単なものもありました。しかし、簡単といっても、俊夫君にとってその解決が容易であったというだけでして、事件そのものはかなりにむずかしいものが多かったのであります。
 これから皆さんにお話ししようとする事件も、警視庁の人たちがもてあましたあげく、俊夫君によって、たちどころに解決された殺人事件であります。犯人はたしかにあの男であると推定されておりながら、その男がじゅうぶん計画をしてやったことでありますから、警視庁の人たちはその証拠をあげることができなかったのです。
 けれども、どんなに巧妙に計画された犯罪でも、どこかに必ず手ぬかりがあるものです。この事件においても、やはり犯人は大きな手ぬかりをしていたのです。しかし、その手ぬかりを、警視庁の刑事たちは気がつかなかったのでして、ただ俊夫君だけが、それを容易に発見して、ついに犯人を自白せしめることができたのであります。
 こういう探偵事件を紹介するには、俊夫君のところへ事件が依頼された当時から書きはじめて、俊夫君が解決するまでを、順序ただしく述べるのが普通ですけれど、今になっては、何もかも分かっているのですから、むしろ、私は犯罪の顛末を先に述べて、それから、俊夫君がそれを解決した模様を語ろうと思います。というのは、皆さんにも、この事件のどこに手ぬかりがあったかを、あらかじめ考えていただきたいと思うからであります。



 日本汽船会社員小野龍太郎が、支配人の佐久間氏を殺そうと決心したのは、一月ほど前のことでありました。支配人といえば、主人も同様でして、かりそめにも主人を殺すということはそこにどんな理由があろうとも許すべからざる大罪悪であります。
 しかし、龍太郎には、生まれながらに悪人の素質があったものか、いったん殺そうと思い立ったが最後、俗にいう悪魔に魅入られたとでもいいますか、どうしても、凶行を演じないではいられなくなったのであります。
 さて、龍太郎がなにゆえに支配人を殺そうとしたかということは、この話にはあまり関係がありませんから、その記述を省きます。
 ただそれが金銭上の問題に関係していることだけを述べておきます。が、それはとにかく龍太郎は支配人殺害を決心するなり、こんどはいかにしたならば、自分が殺したということが分からずにすむであろうかを考えました。彼は無情冷酷な性質でありますが、自分の生命を愛する念もはなはだ強かったのであります。ですから、罪の発覚をふせぐ方法を熟考したのであります。
 人を殺して、自分が生きておろうと考えるような人間を、天は許すはずがありません。けれど悪人である彼は、天に反抗してまで、自分の非を遂げようとしたのであります。彼は自分が殺意を持っていることを、少しも気づかれないように心がけ…

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