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ヴアン・ダインの作風
ヴアン・ダインのさくふう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「平林初之輔探偵小説選Ⅱ〔論創ミステリ叢書2〕」 論創社
2003(平成15)年11月10日
初出「改造 第一二巻第一一号」1930(昭和5)年11月号
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-01-23 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 S・S・ヴァン・ダインは、数年前彗星のようにアメリカに出現して、一挙に、数あるアメリカの探偵小説作家の中で、群を抜いて王座をしめた作家である。
『ベンスン殺人事件』『カナリア殺人事件』『グリーン殺人事件』『僧正殺人事件』その他に近作一つと都合五つの長編小説を著わし、他に若干の短編小説がある。
 そのうちで前の三つは既に映画化され、ウィリヤム・パウエルの主演で、三つとも日本へ輸入された。三つともトーキーであったが、最初に来た「カナリア殺人事件」は日本にまだトーキーの設備のできない時分だったので、サイレントで興行されたと記憶している。
 もともと探偵小説の映画化は、困難であると見えて、シャーロック・ホームズ物にしても、ルパン物にしても、かつて成功したためしがない。トーキーは、その点で、サイレント映画よりも多少の便利をもっている。けれどもヴァン・ダインの作品の映画化は、どれも大して成功とは思われなかった。それだのに、映画会社が、引きつづき彼の作品を三つまで映画化したということは、彼の人気がどれほど異常であるかを知るに足る。



 探偵小説に限らず、一般の通俗小説においても、アメリカの小説は、イギリスやヨーロッパ大陸の小説に比べて、馬鹿げた筋や、剣撃的なテンポや、千編一律なハッピー・エンドにいつまでも低回していて、芸術的価値の乏しいものが多い。ことに探偵小説においてそうで、私も、一時探偵小説が好きで、だいぶ新刊雑誌のものなどを読み漁ったことがあったが、これはと思うような作品にはめったにぶつかったことがなかった。
 こうした中にあって、S・S・ヴァン・ダインの作品は光っている。
 ことに彼は一作ごとに新しい趣向をこらしてゆくので、駄作というようなものは一つもない。どれを見ても、物語の構成から、犯罪捜査の手法から、それを表現する文章に至るまで、一分のすきもなく、しっかりしている。海の彼方のイギリスには、いま、エドガー・ウォーレスという探偵小説の流行児がある。彼はその多作の点において、いかにも楽々と大作を次から次へと発表してゆくエネルギーにおいて私たちを驚嘆させるが、やはり一作ずつをとってみると、ゆるみがある。イージーに書きなぐった形跡を蔽うことができない。どうも私は、ウォーレスをアメリカへもってきて、ヴァン・ダインをイギリスへもって行った方が、所を得ているように思われてならない。それほどヴァン・ダインはアメリカ作家の中で異彩を放っている。



 ヴァン・ダインの探偵小説があれほど読書界の人気を獲得した理由はどこにあるのだろうか? 私はその心理的分析にあるのだろうと思う。彼の作品は架空的な物語の筋を図式的にこんぐらがらせ、発展させていっただけのものではない。それに充分な肉付きを与え外的事件の過程とともに内的心理の過程をも見逃さないようにしている。しかもそれ…

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