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ブリユンチエールの言葉について
ブリユンチエールのことばについて
作品ID48092
著者平林 初之輔
文字遣い新字新仮名
底本 「平林初之輔探偵小説選Ⅱ〔論創ミステリ叢書2〕」 論創社
2003(平成15)年11月10日
初出「探偵趣味」1925(大正14)年9月号
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-12-12 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 探偵小説を広義に解するならば、実社会において比較的稀にしか起こらぬ出来事を取り扱った小説であると言えましょう。同じ恋愛を取り扱っても、普通の程度、普通の径路を辿る恋愛事件を取り扱わないで、程度が病的であるとか径路が数奇を極めているとかでなければ探偵小説とはなりにくいように思われます。
 ところで、かような小説は普通の事件や心理状態を取り扱ったものと比べて価値が少ないという議論があるのであります。Everyman's Libray のPoe's Tales of Mystery and Imaginationの編者の序文の劈頭に、この問題に関するブリュンチエールの言葉がひいてあります。それによると、そういう小説は病理的あるいは生理的には興味があるかもしれないが社会的には無意味であるというのであります。そういう小説の材料となる偶発事件は人生の大道からとってきたものでなくて、人生の端っこに起こる事件からとってきたものであるというのであります。
 私は、文芸の価値は表現にあるというような表現一元論には賛成しませんが、しかし「大道」と「道ばた」とに材料の出所を二分してそれによって「社会的価値」を区別しようとする材料一元論も首肯できません。めったに人の通らぬところに印ししられた足跡にこそ、文芸が科学と区別さるべき個性的価値がかえって深くはないかと思われるくらいであります。ただ論理の追及にのみ重点をおいたり事件の展開や心理の変化にネセシティー〔必然性、因果関係〕を欠くとき、はじめて広義の探偵小説が「社会的無意義」となるとは言えましょう。そこにはしかし、材料ではなくて天分の問題が横たわっています。



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