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『心理試験』を読む
しんりしけんをよむ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「平林初之輔探偵小説選Ⅱ〔論創ミステリ叢書2〕」 論創社
2003(平成15)年11月10日
初出「新青年 第六巻第一二号」1925(大正14)年10月号
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-01-28 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 探偵小説の類は、西洋でもいわゆる「軽い読物」として、文学上には大した地位を占めていないのが普通である。戦後に書かれた二三冊のフランス文学史を開いてみても、私はモーリス・ルヴェルの名前すら発見することができなかった。探偵小説の本場である英米においても恐らく同じであろうと思う。ウェルズや、チェスタトンやハガードなどは別として、純粋の探偵小説家で、いわゆる「文壇」に重きをなしている人はほとんどなかろうと思う。
 それには色々な理由があるであろうが、作者自身が「肩の凝らぬ読み物」を書くのだということに、一種責任が軽くなったような感じをもって、自分で求めて文学界に特殊の一郭を形づくって満足していたせいもあるであろう。
 けれどもすべての文化の進化がそうであるように、文学もますます細かく分化してゆくと同様に、ますます広範な範囲に総合されてゆく。ちょうど、科学界において、細かい発見が年と共に付加されてゆくと同時に、より一般的な原理によりてこれが包括的に説明されてゆくのと同じである。古典時代の文学と二十世紀の文学とを比較してみれば、そのことは一目でわかる。前者においては文学の領域は極めて単純で、ほとんど韻文に限られていたがその韻文がいかに細々しい形式に別れていたことであろう。悲劇、喜劇、史劇、抒情詩、叙事詩、牧歌、悲歌……その他その他が、それぞれ形式的にきちんと区分されていたのである。ところが今日では、百千のイズム、形式が混在していると同時に、文学の全体的総合、さらに進んで音楽も絵画も文学をも包括する総合的境地が開拓されつつあるのである。
 小説もますます細かく分科すると同時に、各部門の境界が混融して合体せんとしている。日本の文壇で執拗に信じられている純文学と通俗小説とのような素朴な二元論は今や存在理由を失いつつあるといってよかろう。この意味で私は探偵小説の個性をも認めると同時にその一般性をも認めたいのである。
 江戸川乱歩氏の近業『心理試験』は、この意味で興味がある。江戸川乱歩は日本が生んだ最初の探偵小説家であるということは氏の作を読んだ人々の間の定評である。この「定評」を分析して、もっと正確に言うと、江戸川乱歩は、探偵小説を芸術のレベルに引き上げたということになる。何となれば赤本の探偵小説は従来いくらも日本にだって流布していたからである。
 小酒井不木氏は『心理試験』の序で、江戸川氏の作品を評して「とうてい外国人では描くことのできぬ東洋的な深みと色彩」とを強調しておられる。じっさい西欧人の作品にばかりなれた私どもには、これらの作品に通ずる「東洋的」色彩をはっきりと感ずることができる。けれども、これまで、日本の探偵小説ばかりよんでいた人を仮定して、その人が『心理試験』から受ける感じは、恐らく「東洋的」ではなくてモダンという色彩であろう。「日本刀のニオイ」の他に、注射針の…

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