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ぼたもち
ぼたもち
作品ID48124
著者三好 十郎
文字遣い新字新仮名
底本 「破れわらじ」 ラジオ・ドラマ新書、宝文館
1954(昭和29)年 12月25日
入力者伊藤時也
校正者伊藤時也、及川 雅
公開 / 更新2009-01-18 / 2014-09-21
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

おりき
新一
次郎
サダ
喜十
森山
おせん
[#改ページ]

新一 そうじやねえよ!
次郎 そうだよ!
新一 そうじやねえよ!
次郎 そうだよつ!
新一 そうじやねえつたら!
次郎 そうだい!
新一 そうじやねえつたら、馬鹿!
次郎 馬鹿でも阿呆でも、そうだからそうだねえかよ!
新一 ちつ、次郎なんぞになにがわかるもんだ!
次郎 へつ、そんじや、新ちやんはなんでもかんでもわかるのけえ?
新一 なんでもかんでもと誰が言つた? ただそうじやねえからそうじやねえと言つてるまでじやねえか。
次郎 んだからよ。おらあ、そうだからそうだと言つてるまでだ。てめえ一人が真理みてえなツラしてエバるこたあねえずら。
新一 真理みてえなツラ、いつした? そうじやねえつて、ただ俺あ――
次郎 わからねえなあ新ちやんも!
新一 わからねえのは次郎の方じやねえか!
次郎 んだから、この簡単明瞭な事実をだなあ、へえ――
新一 だから、事実そうじや無えじやねえか!
次郎 そんな事あ無えよつ! そうなんだ! そうだから、そうだよ!

(――いきなりほとんど喧嘩のような怒鳴り声ではじまつた二人の青年の口論は、もう相当の時間つづいて来たものである。山奥の小みちを歩きながらの口論、二人のズボンが両側の草をこすつたり、足が道を埋めた枯枝を踏みしだく音に、時どき鋭どい小鳥の鳴声が、遠近に冴えて響く)

新一 そうじやねえつたら! 次郎はあんまり狭く、自分の境遇にとじこめられてばつかり考えるから、そうなるんだ! もつと、へえ、広く今の世の中のこと見てみたらどうなんだ?
次郎 広く見てりやこそ、そうだつて俺あ言つてんだ! 人間だれだつて、ふだん考えてる時あ他人と喧嘩してえと思つてる者あ一人もねえさ。だのに喧嘩あ、やつぱしやらかすだ、だらず? だら、そこから出発してだなあ――
新一 ちがう! そりや喧嘩はするよ誰だつて。んだけど、そいつあ、カーツとなつた時の、つまりまちがいで、人間のふだんの状態じやねえさ。そのまちがいを元にしてだな、年中喧嘩の仕度をしてなきやならんと、お前言つてんだ。
次郎 喧嘩あ、まちがいにしろだ、そんなまちがいが多過ぎることを俺あ言つてんだ! そんだら、そいつはまちがいでは無くつて、人間はもともとそうだつて事なんだ。これまでもそうだつたし、これからもそうだ! でなかつたら、原子爆弾を早く多くこさえようと競争なんぞ、どうしてしるだ? え?
新一 だつて、そりや、それとこれとは話が――
次郎 ちがやあしねえ、同じ事だねえか! そんで、どうせそうならば、つまりそれが今の実際の事ならばだ、そこんとこから自分の考えを決めるのが本当だと俺あ言つてるまでだ。第一、お前がそんな理想みてえな事言つて屁りくつこねたり出来るのは、新ちやんが工業学校なんぞ出してもらつて、本なんぞも、いつぺえ読んだりよ、今じ…

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