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銀河鉄道の夜
ぎんがてつどうのよる
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「【新】校本宮澤賢治全集 第十一巻 童話Ⅳ 本文篇」 筑摩書房
1996(平成8)年1月25日
入力者砂場清隆
校正者北川松生
公開 / 更新2016-09-21 / 2016-06-10
長さの目安約 79 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

一、午后の授業

「ではみなさんは、さういふふうに川だと云はれたり、乳の流れたあとだと云はれたりしてゐたこのぼんやりと白いものがほんたうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のやうなところを指しながら、みんなに問をかけました。
カムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジョバンニも手をあげやうとして、急いでそのまゝやめました。たしかにあれがみんな星だと、いつか雑誌で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないといふ気持ちがするのでした。
ところが先生は早くもそれを見附けたのでした。
「ジョバンニさん。あなたはわかってゐるのでせう。」
ジョバンニは勢よく立ちあがりましたが、立って見るともうはっきりとそれを答へることができないのでした。ザネリが前の席からふりかへって、ジョバンニを見てくすっとわらひました。ジョバンニはもうどぎまぎしてまっ赤になってしまひました。先生がまた云ひました。
「大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河は大体何でせう。」
 やっぱり星だとジョバンニは思ひましたがこんどもすぐに答へることができませんでした。
先生はしばらく困ったやうすでしたが、眼をカムパネルラの方へ向けて、「ではカムパネルラさん。」と名指しました。するとあんなに元気に手をあげたカムパネルラが、やはりもぢもぢ立ち上ったまゝやはり答へができませんでした。
先生は意外なやうにしばらくぢっとカムパネルラを見てゐましたが、急いで「では。よし。」と云ひながら、自分で星図を指しました。
「このぼんやりと白い銀河を大きないゝ望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。ジョバンニさんさうでせう。」
ジョバンニはまっ赤になってうなづきました。けれどもいつかジョバンニの眼のなかには涙がいっぱいになりました。さうだ僕は知ってゐたのだ、勿論カムパネルラも知ってゐる、それはいつかカムパネルラのお父さんの博士のうちでカムパネルラといっしょに読んだ雑誌のなかにあったのだ。それどこでなくカムパネルラは、その雑誌を読むと、すぐお父さんの書〔斎〕から巨きな本をもってきて、ぎんがといふところをひろげ、まっ黒な頁いっぱいに白い点々のある美しい写真を二人でいつまでも見たのでした。それをカムパネルラが忘れる筈もなかったのに、すぐに返事をしなかったのは、このごろぼくが、朝にも午后にも仕事がつらく、学校に出てももうみんなともはきはき遊ばず、カムパネルラともあんまり物を云はないやうになったので、カムパネルラがそれを知って気の毒がってわざと返事をしなかったのだ、さう考へるとたまらないほど、じぶんもカムパネルラもあはれなやうな気がするのでした。
先生はまた云ひまし…

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