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雑信(二)
ざっしん(に)
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「山頭火随筆集」 講談社文芸文庫、講談社
2002(平成14)年7月10日
初出「椋鳥会『初凪』」1913(大正2)年1月
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2008-07-15 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

△今朝、思いがけなく本集をうけとりました。前集ほど振っていないという評には誰も異議はありますまい。句が総じてダレています。無理に拵えたらしい痕跡があります。
△私は此度もまた出句することが出来ませんでした。自分は出句もしないで、こういう勝手な文句を並べる――実は済まない、不都合千万だと思います。併し詮方がありません。私には今の処どうしても句が作れません。句作の余裕――句材があってもそれを句として発表するだけの心のユトリがありません。私は此頃非常に心身が動揺しています。それがために殆んど家業をも省みないほどの慌しい押し詰った生活を続けています。どうぞ私を赦して下さい。そしてもう少し考えさして下さい。
△五句集の組織について色々の御意見がありますが、それによって五句集に対する諸君の熱心な真面目な態度が窺われて私は至極喜んで居ります。自から省みて自分の俯甲斐なさを責めずにはいられません。発奮せずにはいられません。
△私は私だけの意見をチョッと述べて置きます。石花菜君の説には賛成ですが、今は其時期であるまいと思います。やっぱり碧松君のいわれるように本五句集は本五句集として今迄通りの経路を進んでゆくのがよかろうと思います。一言にして尽せば私は現状維持論者です。
△一転しつつある私は懐疑に生きて居ります。私は俳句其物に就て諸君の御高見を承りたいと切望しています。句の巧拙とか優劣とかいうこと以外にまた句材とか句法とかいうものについて御経験を示して戴きたいと思います。そして時々『何故我々は句作するか』という疑問を提出して考えたり論じたりするのは一面非常に無知な、そして一面非常に意味あることだろうと信じて居ります。
       △ △ △
△華やかな春にあこがれていられる石花菜君の若々しい感情を祝福する。緑大野にそそり立つ樫樹のような碧松君の堅実な歩調を尊敬する。そして折からの凩に嚔をしたり苦笑したりする破口栓君の心持に同情する。私は三君とりどりの態度に動かされた。私もまた私の一部を暴露したい。荒んで石塊のように硬張った私の感情を少しばかり披露したい。あの大道芸人が群衆の前にその醜い髯面をさらすように!
△私にも春があった。青い花を求め探した、黄ろい酒を飲み歩いた。赤い燃ゆるような唇を吸った。強烈なもの、斬新なもの、身も心も蕩けてしまうようなもの、熱愛する恋人を弄り殺して剖き取った肉のようなものを貪ぼった――実人生を芸術化しようとして悶え苦しんだ、悶え苦しんで何を得た? あゝたゞアルコール中毒!
△自己批評は三人の私生児を生んだ。自棄生活、隠遁生活、そして自己破壊。私はそのいずれと結婚したか。……

深い穴がある。
冷たい風が吹く。
誰やら歩いてくる――
灰色の靄の奥から、
トボ/\と歩いてくる。
誰だ!
シツカリしろ!
ビク/\するな、
急げ、急げ、
愚図々々せずに急いで…

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