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行乞記
ぎょうこつき
副題11 大田から下関
11 おおたからしものせき
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「山頭火全集 第五巻」 春陽堂書店
1986(昭和61)年11月30日
入力者小林繁雄
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2009-03-08 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 八月廿八日

星晴れの空はうつくしかつた、朝露の道がすが/\しい、歩いてゐるうちに六時のサイレンが鳴つた、庵に放つたらかしいおいた樹明君はどうしたか知ら!
駄菓子のお婆さんが、よびとめて駄菓子を下さつた。
山口の農具展覧会行だらう、自転車と自動車とがひつきりなしにやつてくる。
山のみどりのこまやかさ、蜩のしめやかさ。
真長田村――湯ノ口近く――で、後からきた自動車がすつと止まる、そして洋服姿が出てきて、にこにこしながら近づく、敬君だ、まるで予期したやうな、約束したやうな邂逅だ、自動車に乗ることだけは断つて、今夜はゆつくり飲むことにする。
湯ノ口行乞、伊佐へ左折しないでまつすぐ大田へ、夕立がやつてきた、濡れて歩く、あんまり降るから、とある農家に雨やどりして、そこの老人と世間話をする、誰もが話すやうに不景気々々々。
十二時すぎにはもう敬治居にくつろぐことができた、敬君は御馳走こしらへにいそがしく、私は風呂水をくむ、奥さんも子供さんも留守だから、まるで其中庵の延長――物資の豊富はいはない――みたいなものだつた。
うまい酒(一週間ぶりの酒だ)うまい飯(敬君炊ぐところの)を腹いつぱい詰め込んだ。
大夕立、まことに大雨大雷だつた、これで二人の憂欝は流れ去つてしまつた。
敬君が跣足で尻端折で畠の草を取る、私は寝ころんで新聞を読む、ユカイ/\。
法衣の洗濯、一年ぶりの垢を洗つた、敬君に理髪して貰ふ、さつぱりした。
夜はまた酒、敬君は腹痛で注射をしてもらつたりしたが、私はぐつすり寝ることができた。
とにかくたのしい日であり夜であつた。
・みちは露草のつゝましい朝明け
 さかのぼる水底の秋となつてゐる
 小亀がういて秋暑い水をわたる
 旅の法衣のはらへどもおちないほこり
 つくり酒屋の柳いよ/\青し
・けふのおひるは草にすわつてトマトふたつ
 昼寝のびやかだつたよ山とんぼ
・山をまへに流れくる水へおしつこする
・昼顔も私も濡れて涼しうなつた
行程五里、所得は十六銭と六合。
行乞について

 八月廿九日

四時には二人とも起きた。
敬君はまた草取、私は風呂焚だ。
朝湯朝酒はゼイタクすぎるうれしさだつた(私共の酒量も減つたものである、二人で三度飲んで、やうやく一升罎が空になつたぐらゐである)。
御飯を炊きすぎたといふので、敬君が大きなおむすびをこしらへてくれた。
七時半出立、秋吉をへて伊佐へ。
途上しば/\休んだ、朝酒がこたえたのである。
或る山寺で例のおむすびを味つた、親友の心持がしみ/″\と骨身にしみた、その山寺の老房守さんもしんせつだつた、わざ/\本堂の障子をあけはなつて、私を涼しく昼寝させて下さつた。
午後二時から四時まで伊佐行乞。
行程五里、所得はいつもの通り。
この宿――豊後屋といふ――はやつぱりよかつた、同宿者のおしやべりには閉口したけれど、一室一燈一張のよろしさだ…

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