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桜さく島
さくらさくしま
副題春のかはたれ
はるのかはたれ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「桜咲く島 春のかはたれ」 洛陽堂
1912(明治45)年2月24日
入力者土屋隆
校正者田中敬三
公開 / 更新2005-09-12 / 2014-09-18
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#ここから手書き文字]
暮れゆく春のかなしさは
歌ふをきけや爪弾の
「おもひきれとは死ねとの謎か
死ぬりや野山の土となる」
[#ここで手書き文字終わり]
[#改ページ]

隅田川

「春信」の
女の髪をすべりたる
黄楊の小櫛か
月の影。
「どうせ売られる身ぢやほどに
静かに漕やれ 勘太殿」
[#改ページ]

人買

秋の日は
赤い蜻蛉のかはたれに
塀の蔭から青頭巾。

やれ人買ぢや、人買ぢや
何処へ迯げようぞ、隠れようぞ。
赤い蜻蛉が飛びまわる。
[#改ページ]

御籤

思ひあまりて御籤を引けば
なんとせうぞの凶と出る。
いつそ打明け話さうか
ひとりで泣いて済さうか。
えヽなんとせう川柳。
[#改ページ]

雀の子

トコ ドンドコ ピイ ヒヤラヒヤア
麦の上をば風が吹く。

役者の群にはぐれたる
子供心のはかなさは
……うちの浦のちさの木に
  雀が三羽とうまつて
  一羽の雀がいふことにや
  ゆふべ御座つた花嫁御
  何が悲しゆてお泣きやるぞ
  お泣きやるぞ………………
今のわが身につまされて
ほろりほろりと泣いてゆく。
[#改ページ]

白い薬

黄な袋のセメンエン
熱ある舌にしみる時。
暗い空から雪が降る。

炬燵の上の黒猫の
青い瞳の光る時。
柩の屋根へ雨が降る。
[#改ページ]

街の五月

……チン ツン くどけば なぁびく
  チツツン ツントン 相生の松……

口三味線の足拍子
空気草履の柔かさ。
肩のうへでは花色の
日傘がまわる絵がまわる。

……またいついつもの約束の チンツン
  日をまつ 時まつ 暮をまあつ……
[#改ページ]

越後の山

角兵衛獅子の悲しさは
親が太鼓打ちや、子が踊る。
股の下から峠を見れば
もしや越後の山かと思ひ
泣いてたもれなとも/″\に。

角兵衛獅子の身の辛さ
輪廻はめぐる小車の
蜻蛉がへりの日も暮れて
旅籠をとるにも銭はなし
逢の土山雨が降る。
[#改ページ]

夏のかはたれ

  一や
  二や
  お駒さん。
  煙草の けむりは
  丈八つあん…………
とん/\とんとつく手鞠。
白い指からはなれて見れど
未練が残るといつたよに
やるせないよに往来する。
ゆら/\ゆれる伊達帯から
江戸紫の日が暮れる。
  三や
  四や
  夕霧さん………
[#改ページ]



春の夜の、夢の一つはかくなりき。
丹塗の欄の長廊に
散りくる花を舞扇
うけて笑みたる「歌麿の
女」の青き眉を見き。

冬の夜の、夢一つはかくなりき。
黒き頭巾を被りたる
人買の背に泣いじやくり
山の岬をまわる時、
「廣重の海」ちらと見き。
[#改ページ]

雪の降る日

雪の降る日は、駒鳥[#ルビの「こまどり」は底本では「こま り」]の
紅い胸毛のおど/\と
風に吹かれるやるせなさ。

雪の降る日に、小雀は
赤い木の実が食べたさに…

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