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註文帳
ちゅうもんちょう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「泉鏡花集成3」 ちくま文庫、筑摩書房
1996(平成8)年1月24日
入力者門田裕志
校正者染川隆俊
公開 / 更新2009-06-10 / 2014-09-21
長さの目安約 70 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

剃刀研  十九日  紅梅屋敷  作平物語  夕空  点灯頃


雪の門  二人使者  左の衣兜  化粧の名残
[#改ページ]

     剃刀研

       一

「おう寒いや、寒いや、こりゃべらぼうだ。」
 と天窓をきちんと分けた風俗、その辺の若い者。双子の着物に白ッぽい唐桟の半纏、博多の帯、黒八丈の前垂、白綾子に菊唐草浮織の手巾を頸に巻いたが、向風に少々鼻下を赤うして、土手からたらたらと坂を下り、鉄漿溝というのについて揚屋町の裏の田町の方へ、紺足袋に日和下駄、後の減ったる代物、一体なら此奴豪勢に発奮むのだけれども、一進が一十、二八の二月で工面が悪し、霜枯から引続き我慢をしているが、とかく気になるという足取。
 ここに金鍔屋、荒物屋、煙草屋、損料屋、場末の勧工場見るよう、狭い店のごたごたと並んだのを通越すと、一間口に看板をかけて、丁寧に絵にして剪刀と剃刀とを打違え、下に五すけと書いて、親仁が大目金を懸けて磨桶を控え、剃刀の刃を合せている図、目金と玉と桶の水、切物の刃を真蒼に塗って、あとは薄墨でぼかした彩色、これならば高尾の二代目三代目時分の禿が使に来ても、一目して研屋の五助である。
 敷居の内は一坪ばかり凸凹のたたき土間。隣のおでん屋の屋台が、軒下から三分が一ばかり此方の店前を掠めた蔭に、古布子で平胡坐、継はぎの膝かけを深うして、あわれ泰山崩るるといえども一髪動かざるべき身の構え。砥石を前に控えたは可いが、怠惰が通りものの、真鍮の煙管を脂下りに啣えて、けろりと往来を視めている、つい目と鼻なる敷居際につかつかと入ったのは、件の若い者、捨どんなり。
 手を懐にしたまま胸を突出し、半纏の袖口を両方入山形という見得で、
「寒いじゃあねえか、」
「いやあ、お寒う。」
「やっぱりそれだけは感じますかい、」
 親仁は大口を開いて、啣えた煙管を吐出すばかりに、
「ははははは、」
「暢気じゃあ困るぜ、ちっと精を出しねえな。」
「一言もござりませんね、ははははは。」
「見や、それだから困るてんじゃあねえか。ぼんやり往来を見ていたって、何も落して行く奴アありやしねえよ。しかも今時分、よしんば落して行った処にしろ、お前何だ、拾って店へ並べておきゃ札をつけて軒下へぶら下げておくと同一で、たちまち鳶トーローローだい。」
「こう、憚りだが、そんな曰附の代物は一ツも置いちゃあねえ、出処の確なものばッかりだ。」と件ののみさしを行火の火入へぽんと払いた。真鍮のこの煙管さえ、その中に置いたら異彩を放ちそうな、がらくた沢山、根附、緒〆の類。古庖丁、塵劫記などを取交ぜて、石炭箱を台に、雨戸を横え、赤毛布を敷いて並べてある。
「いずれそうよ、出処は確なものだ。川尻権守、溝中長左衛門ね、掃溜衛門之介などからお下り遊ばしたろう。」
「愚哉々々、これ黙らっせえ、平の捨吉、汝今頃この処に来って、憎まれ口…

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