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四五ニズム述懐
しごニズムじゅっかい
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「普及版 原民喜全集第一巻」 芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日
入力者蒋龍
校正者伊藤時也
公開 / 更新2013-04-17 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 四五ニズムも今では想ひ出になってしまったが、ああ云ったものは何時の時代にも何処かで存在してゐるのではないかと僕には思はれる。それで四五ニズムに就いて少し改めてメモを作ってみる。
 まづ四五ニズムの語義から明かにすべきだが、これは四五人のグループに於いて自づから相互間に発生した風習又は雰囲気とでも呼ぶべきものだらう。ただし、四五ニズムと云ふ言葉が出来た頃は既に四五ニズムは衰微しかけてゐた。四五ニズムの語源は勿論、四五人会と云ふ言葉から出た。ところで、四五人会と云ふのは四人だか五人だかはっきりしないグループで、時折、四五人会雑誌と称する勝手な回覧雑誌を発行してゐた。その雑誌も第十何号か続いたのだが、今は全部散佚し、紛失してしまって、僕は知らない。
 何しろ当時はみんな二十三四の学生で、胎蕩たるものがあった。例をあげるとかう云ふ事がある。僕は三田の下宿でスウェデンボルグを読みかかった。或る夜夢のなかで天馬の呼び声がしたので目が覚めると、枕辺には彼の幻影が遠のいて行くのだ。それ故、僕は天馬と逢ふと早速云った、「君の大恋愛も大変なことになったね、君の霊魂は昨夜夜なかに巣鴨を抜け出して、横浜の女学校の方へ赴いた形跡があるよ。そしてどうも君は帰りに田町駅で途中下車して僕のところへ来たらしい。僕が夢から覚めた時、全く君は悄然とした姿で消えて行ったからね。」この話は早速天馬から月狂へ、月狂から吉士へ伝はって、吉士は僕の荒唐無稽さを鬼の首を獲った如く欣び勇んだ。
 吉士、月狂、天馬と僕との四人が集まって句会でもやる時にはきまって誰か一人が遅れるか欠席した。すると、そいつの悪口が絶えず話題にのぼった。句会がはねて、喫茶店でお茶でも飲んで、その次はさてどうするかと云ふことになると、皆で二三十分も迷った。即ち催眠術にかかってしまふのであった。
 吉士と僕とはよく四国町の小路をぐるぐる歩いた。「君は肺病になるぞ。」「君こそ今に喀血するよ。」「ぢゃあ三十までに血を吐いた方が百円出すことにしようか。」「しかし妙なものだね、僕は割に死なないよ、第一頭が余計な心配しなくたって、身体は疲れたら睡るし、だるけりゃ動かないし、自然にうまく調節してくれるので、つい感心してしまふ。」さう云ひながら二人は四つ角に来て、どちらへ行くべきか立留ったが、差当りいい智慧もなかった。そこで眼の前の看板の文字を数へてみて、奇数だったら左へ、偶数だったら右へ折れることにした。
 月狂は酔ぱらって神楽坂の乞食に煙草の輪を吹きかけて、衆目を集めると、諸君、人間は無限に生きる必要はないのであります、と、「マクロホウロス家の秘法」の科白のうろ憶えを一くさり演説した後、やあ諸君、と嬉々として袂別するのであった。
 蛾眉は田舎の方から時々消息文を送って来たが、蓄膿症はつらいとか、徽宗皇帝の絵がいいとか、美人に愛されたいとか、浮世…

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