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夏の日のちぎれ雲
なつのひのちぎれぐも
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「普及版 原民喜全集第一巻」 芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日
入力者蒋龍
校正者伊藤時也
公開 / 更新2013-04-23 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 まっ青な空に浮ぶ一片の白い雲がキラキラと雪のやうに光ってゐる、山の頂である。向ふには竹藪があって、晴嵐がまき起ってゐる。そこに金髪の女がガーターを留めようとして脚をかがめながら笑ってゐる。イメージと実景がごっちゃになって、生活感情がもっと旅を欲してゐる。青年は九州の山の奥へ来て、ライン河が見たいなと呟く。

 人の気もない石で囲まれた浴槽へ彼が入ると、女の裸体が一つあった。それは大理石のやうで、静かに溢れる青い湯に浸されたままであった。静かな真昼の光線がなみなみと降り注ぐ。にはかに、女の裸体は生きてゐて、そっと身動きした。
 自動車で乗合はせた少女が鼻血を出してゐて、揺れるたびに啜り込む。その血が花瓣のやうに想へて、何時までも彼の頭にこびりつく。――昨日、宿の前の海で溺死人があった、さっき自動車は小犬を轢き殺した。



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