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其中日記
ごちゅうにっき
副題07 (七)
07 (しち)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「山頭火全集 第六巻」 春陽堂書店
1987(昭和62)年1月25日
入力者小林繁雄
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2009-08-16 / 2014-09-21
長さの目安約 95 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

花開時蝶来
蝶来時花開


 七月廿六日

曇、雨、蒸暑かつた、山口行。
△心臓いよ/\弱り、酒がます/\飲める、――飲みたい、まことに困つたことである。
朝、学校の給仕さんがやつてきて、山口へ出張の樹明君からの電話を伝へる、――今日正午、師範学校の正門前で待つてゐる、是非おいでなさい、――そこでさつそく出かける、上郷駅まで歩いて、九時半の汽車で湯田へ。
千人風呂にはいつて髭を剃る、浴後一杯ひつかけることは忘れない、濡れて歩いて山口へ、予定通りに両人会合、二十銭の定食で腹をこしらへて、鈴木さん訪問、いつものやうに御馳走になる、冷し素麺がおいしかつた、それから、街をぶらついてゐると、幸か不幸か、伊東俊さんに邂逅、食堂から食堂へとうろついた、そしてさらに湯田で飲む、私たち二人は西村さんを尋ねあて、湯に入れて貰ひ、ビールを戴いた、むろん短冊や色紙は樹明君に煽動されて書きなぐつた、それからまた、祇園祭の人込を縫ひ歩き、最終のバスで帰庵、満月のうつくしさを賞する余裕もなく、ぐつすりと寝た、よくもあれだけ飲んだり食べたりしたものだ、そして無事におとなしく戻つてきたものだ、そのいづれも感心されてよい!
今日の印象、――今日の感想――
何となく心楽しい日(時々かういふ日がある、日々好日ではあるけれど)。
汽車がバスより高いとは(上郷から湯田まで、汽車賃十三銭、バスは十銭、このバスは安くて心地のよい道である、今日は満員つゞきで、とても乗れない)。
ガソリンカアの快さよ、逢ひにゆくにも飲みにゆくにも!
田舎の娘さんのハイカラぶりはあまりよくありませんね、ゼイタクは一しほみじめですよ。
マダムはシヤン、お嬢さんはスベタ、まことにお気の毒なことですが。
湯田はよいとこ。……
千人風呂五銭の享楽!
檻の猿、それをいつまでも見てゐる人々。
ボロ着て涼しく、安らかで朗らかで。
湯あがりの肌へ雨のかゝるも悪くない。
さみだれて濁り湛へた水(といつても差支あるまい)からぼちやんと跳ねては大鯉のあそび。
梅雨のやうな土用、しかし鰻は、せめて鰌でも食べたいものですね。
糸米の山口が今日は殊によかつた、山口の山はうつくしい、含蓄があつて親しみがある。
鱸のあらひ、鮒のあらひ、鮎の塩焼、いづれも結構だつたが、鮎はとりわけ有難かつた。
人の世に、死のさびしさ、生のなやみはなくなりません。
女よりも男、ビールよりも酒、海よりも山、樹よりも草、そして、――
N旅館の三助君、とても感じがよかつた、そして二人の仲居さん、あまり感じがよくなかつた。
Y子さんは女性としての媚態を持つてゐない、そこがよいと思つた、彼女自身のためにはよくあるまいけれど。
・道がまつすぐ大きなものをころがしてくる
・よい雨が音たかくふる、これで十分
・かうして暮らして何もかも黴だらけ
・山のみどりを霧がはれたりつつんだり
・うれしい朝…

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