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恐妻家庭円満術
きょうさいかていえんまんじゅつ
作品ID48571
著者小野 佐世男
文字遣い新字新仮名
底本 「猿々合戦」 要書房
1953(昭和28)年9月15日
入力者鈴木厚司
校正者伊藤時也
公開 / 更新2010-02-28 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 女房と旦那という関係は何千万人の中から選ばれた二人なんで、これは仇やおろそかにするわけにいかないとボクは思っている。
 ボクは結婚して三日目に女房になぐられた。いきなり横っ面をポカッとなぐられた。これには理由がありまして、新聞社の学芸部の仲間が宴会をやってくれたんですが、酒を飲んでるうちに夜遅くなった。友達は、
「お前酒が好きなんだから泊ってけ。女房が恐いんだろう」
 という。男の虚栄心というものがありまして、
「恐いものかい! よし泊ってやろう」
 ということになった。その時も友達が、
「あしたの朝おれたちがいってあやまってやるよ」
 と、いったんですが、夜が明けて一しょに来てくれと頼むと、その連中、
「バカだな。とんでもねえ奴だよ。何だってキミはまあ結婚したばっかりでこんなことやったんだ。送ってなんか行けない」
 ボクは一人にされちゃって、こわごわ玄関に入った時に、ヒラヒラと白い足袋が出た。シーンとした中で白い足袋が目についたと思ったら、ポカッとなぐられた。そのうしろにボクの母親がいた。その母親が、
「このバカ息子!」
 と、どなって、女房に、
「もっとぶんなぐれ、癖になる」
 そしたら、女房がまた元気を出してボクをなぐった。
 ボクはそのまま逃げてしまった。しようがなくて義理の兄貴のところに行って頼んで帰ったような始末でしたが、その母親がボクにつかないで、バカ息子といって私をなぐらしたということが非常によかった。それだからうちの母と家内がうまくいった。嫁と姑という関係が非常によくいきまして、女房はうちの母を立てた。家庭はなごやかにできたんで、いま考えるとなぐられたということが私はよかった。そんな気がする。
 しかし亭主がなぐられたということは、これはいけないことなんで、夫婦というものは最初にやられた方が負けなんで、それがボクにはいまだにつきまとっていて恐いんです。
 それからボクはこのごろ世間でいう「恐妻」という言葉がありますが、妻を恐れるということはやはり一つの愛情なんで、妻を愛するからとか、[#「からとか、」は底本では「からとか 」]夫を非常にいたわっているような時にそういう姿になるような気がする。ボクなんかの考えとしては、母の胎内にいる時ということが頭にあるんじゃないか。先入意識にあるんじゃないか。女性の腹の中でボクは育ったのですから。そんな気がして、何か厳かなような気がして、自分の生まれ落ちたその女性というものを非常に恐れる。尊敬と、その中に自然に恐れているような気がするのです。これが何か男が姙娠するような、つまり赤ちゃんを産めるのなら対等的な恐怖なんかないような気がするのでそんな気がするのです。
 男というものは女性と違って社会に活動するのには非常な敵を持っている。七人の敵があるということは事実なんで、現在ではそれ以上のものがある。乱暴な自…

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