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不吉の音と学士会院の鐘
ふきつのおととラシステキューのかね
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」 ちくま文庫、筑摩書房
2007(平成19)年7月10日
初出「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂、1911(明治44)年12月
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-10-15 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 昼も見えたそうだね。渋谷の美術村は、昼は空虚だが、夜になるとこうやってみんな暖炉物語を始めているようなわけだ。其処へ目星を打って来たとは振っているね。考えてみれば暢気な話さ。怪談の目星を打たれる我々も我々であるが、部署を定めて東奔西走も得難いね。生憎持合せが無いとだけでは美術村の体面に関わる。一つ始めよう。
 しかし前から下調をしておくような暇が無かったのだから、何事もその意で聞いて貰わなければならない。あるには有る。例えば羅馬という国だ。この国は今言うような趣味の材料には、最も豊富な国と言っていい、都鄙おしなべて、何か古城趾があるとすれば殊に妙であるが、其処には何等かの意味に於いて、何等かの怪が必ず潜んでいる。よく屋外よりも屋内が淋しいものだというが、荒廃に帰した宮殿の長廊下など、その周囲の事情から壁や柱の色合などへかけて、彼等の潜伏する場所として屈強の棲家だと点頭れるのだから、そういうような話の方面からも、この羅馬を開拓すれば、何か頗る面白いものを手に入れられるか知れぬが、今は一々記臆に存していないのが甚だ遺憾である。この遺憾を補う一端として、最近読んだ書籍の中から、西洋にもあり得た実例の一例として、その要領だけを引き抜いてみることにしよう。この話は最近読んだばかりだから、まだ記臆には新しい方だ。色や光や臭いという方面から突込むのも面白いが、この話は音の怪に属する。
 他の事でも無い。英吉利の画壇で有名な人でハークマと言えば知らぬ人はない。この人はローヤルアカデミーの会員でもあるし、且つまた水彩画会の会員でもあって、頗る有力な名誉ある人だ。近頃この人の自伝が二冊本になって出た。この本の中に今の所謂頗る怪めいた話が出ている。それがしかも頗る熱心に真面目に説いてある。一言にして尽くせば、自分の昵近な人の間に何か不吉なことがあると、それが必らず前兆になって現われる。いかなる前兆となって現われるかというに叩く音!
 どんな風に叩く音かといえばコツコツと叩く音だ。ハークマのお母さんの死んだ時もそうであったと叙べている。この人には二どめの妻君があって、この妻君も死ぬことになるが、その死ぬ少し前に、ハークマは慥か倫敦へ行っていて、そして其処から帰える。一体この人の平素住んでいるのは有名なブッシュというところで、此処には美術学校もあるし、この土地はこの人に依って現われたので、ハークマのブッシュかブッシュのハークマかと謳われていたくらい、つまりこの怪談の場所は此処になるのだが、その倫敦から帰ってきた時は、恰かもその妻は死に瀕していた時で、恰度妹がいて妻の病を看ていた。その時部屋の窓の外に当って、この時の音は少し消魂敷い。バン……と鳴って響いた。即ち妻が死んだのであった。兎に角何か不吉なことがあると、必らずこの音を聞いたと、この自伝の中に書いてあるが、これが爰に所謂『不吉…

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