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鬼無菊
きなしぎく
作品ID49241
著者北村 四海
文字遣い新字新仮名
底本 「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」 ちくま文庫、筑摩書房
2007(平成19)年7月10日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-10-07 / 2014-09-21
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 信州の戸隠山麓なる鬼無村という僻村は、避暑地として中々佳い土地である、自分は数年前の夏のこと脚気の為め、保養がてらに、数週間、此地に逗留していた事があった。
 或日の事、自分は昼飯を喫べて後、あまりの徒然に、慰み半分、今も盛りと庭に咲乱れている赤い夏菊を二三枝手折って来て、床の間の花瓶に活けてみた、やがてそれなりに自分はふらりと宿屋を出て、山の方へ散歩に行ったのである、二時間ばかりして宿屋へ帰った、直ぐ自分の部屋へ入ると私は驚いた、先刻活けたばかりの夏菊が最早萎れていたのだ、一体夏菊という花は、そう中々萎れるものでない、それが、ものの二時間も経ぬ間にかかる有様となったので、私も何だか一種いやな心持がして、その日はそれなり何処へも出ず過した、しかし幸と何事も無く翌日になったが、未だ昨日の事が何だか気に懸るので、矢張終日家居して暮したが、その日も別段変事も起らなかった、すると、その翌日丁度三日目の朝、突然私の実家から手紙で、従兄が死んだことを知らして来た、書中にある死んだ日や刻限が、恰度私が活けた夏菊の萎れた時に符合するので、未だに自分は不思議の感に堪えぬのである。



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