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枯尾花
かれおばな
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」 ちくま文庫、筑摩書房
2007(平成19)年7月10日
初出「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂、1911(明治44)年12月
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-10-31 / 2014-09-21
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

◎北千住に今も有る何んとか云う小間物屋の以前の営業は寄席であったが、亭主が或る娼妓に精神をぬかし、子まである本妻を虐待して死に至らしめた、その怨念が残ったのか、それからと云うものはこの家に奇しい事が度々あって驚ろかされた芸人も却々多いとの事であるが、或時素人連の女芝居を興行した際、座頭の某が急に腹痛を起し、雪隠へはいっているとも知らず、席亭の主人が便所へ出掛けて行く、中の役者が戸を明て出る機会、その女の顔を見るが否や、席亭の主人は叫喚と云って後ろへ転倒り汝まだ迷っているか堪忍してくれと拝みたおされ。女俳優はあべこべに吃驚して、癪を起したなどは滑稽だ。

◎京都の某壮士或る事件を頼まれ、神戸へ赴き三日斗りで、帰る積りのところが十日もかかり、その上に示談金が取れず、貯えの旅費は支いきり、帰りの汽車賃にも差支え、拠無く夕方から徒歩で大坂まで出掛る途中、西の宮と尼が崎の間だで非常に草臥れ、辻堂の椽側に腰を掛て休息していると、脇の細道の方から戛々と音をさせて何か来る者がある、月が有るから透して見ると驚た、白糸縅の鎧に鍬形打たる兜を戴き、大太刀を佩び手に十文字の鎗を提げ容貌堂々威風凜々たる武者である、某はあまり意外なものに出会い呆然として見詰ているうち、彼の武者は悠々として西の宮の方へ行てしまったが、何が為めに深夜こんな形相をして、往来をするのか人間だろうか妖怪だろうか、思えば思うほど、不審が晴れぬと語りしは、今から七八年あとの事である。

◎浅草の或る寺の住持まだ坊主にならぬ壮年の頃過つ事あって生家を追われ、下総の東金に親類が有るので、当分厄介になる心算で出立した途中、船橋と云う所で某妓楼へ上り、相方を定めて熟睡せしが、深夜と思う時分不斗目を覚して見ると、一人であるべき筈の相方の娼妓が両人になり、しかも左右に分れて能く眠っているのだ、有る可き事とも思われず吃驚したが、この人若いに似合ず沈着た質ゆえ気を鎮めて、見詰めおりしが眼元口元は勿論、頭の櫛から衣類までが同様ゆえ、始めて怪物なりと思い、叫喚と云って立上る胖響に、女も眼を覚して起上ると見る間に、一人は消えて一人は残り、何に驚ろいて起たのかと聞れ、実は斯々と伍什を語るに、女不審げにこのほども或る客と同衾せしに、同じ様な事あり畢竟何故とも分明らねど世間に知れれば当楼の暖簾に疵が付べし、この事は当場ぎり他言は御無用に願うと、依嘱れ畏々一ト夜を明したる事ありと、僕に話したが昔時の武辺者に、似通った逸事の有る事を、何やらの随筆本で見たような気もする。

◎これは些古いが、旧幕府の頃南茅場町辺の或る者、乳呑子を置て女房に亡なられ、その日稼ぎの貧棒人とて、里子に遣る手当も出来ず、乳が足ぬので泣せがむ子を、貰い乳して養いおりしが、始終子供に斗り掛っていれば生活が出来ないから、拠無くこの児を寐かしつけ、泣たらこれを与えてくれと、おもゆ…

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