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王成
おうせい
作品ID4926
著者蒲 松齢
翻訳者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「聊斎志異」 明徳出版社
1997(平成9)年4月30日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-09-18 / 2014-09-21
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 王成は平原の世家の生れであったが、いたって懶け者であったから、日に日に零落して家は僅か数間のあばら屋をあますのみとなり、細君と乱麻を編んで作った牛衣の中に寝るというようなみすぼらしい生活をしていたが、細君が小言をいうので困っていた。それは夏の燃えるような暑い時であった。その村に周という家の庭園があって、牆は頽れ家は破れて、ただ一つの亭のみが残っていたが、涼しいので村の人達がたくさんそこへ泊りにいった。王成もその一人であった。
 ある朝のことであった。寝ていた村の人達は皆帰っていったが、懶け者の王成一人は陽が高く昇るまで寝ていて起き、それでまだぐすぐすしていて帰ろうとすると、草の根もとに金の釵が一つ光っていた。王成が拾って視ると細かな文字を鐫ってあった。それは儀賓府造という文字であった。王成の祖父は衡府儀賓、すなわち衡王の婿となっていたので、家に残っている品物の中にその印のある物が多かった。そこで王成は釵を持ってためらっていると、一人の老婆が来て、
「もしか、この辺に釵は落ちていやしなかったかね。」
 といった。王成は貧乏はしても頑固な正直者であったから、すぐ出して渡した。
「これですか。」
 老婆はひどく喜んだ。「お前さんは正直者だ。感心な男だ、お蔭でたすかったよ。これは幾等もしないものだが、先の夫の形見でね。」
 王成は儀賓府造の印のある品物を遺した夫という人の素性が知りたかった。
「あなたの夫というのは、どうした方です。」
 と問うた。すると老婆が答えた。
「もとの儀賓の王柬之だよ。」
 王成は驚いていった。
「それは私のお祖父さんですよ。どうしてあなたに遇ったのでしょう。」
 老婆もまた驚いていった。
「ではお前さんは、王柬之の孫だね。私は狐仙だよ。百年前、お前さんのお祖父さんに可愛がられてたが、お祖父さんが没くなったので、私もとうとう身を隠してしまった。それがここを通って釵をおとして、お前さんの手に入ったというのも、天命じゃないかね。」
 王成も祖父に狐妻のあったということを聞いていたので、老婆の言葉を信用した。
「そうですよ、天命ですよ、では、これから私の家へいってくれませんか。」
 というと老婆はそのまま随いて来た。王成はそこで細君を呼んであわした。細君の頭髪は蓬のように乱れて、顔色は青いうえに薄黒みを帯びていた。老婆はそれを見て、
「あァあァ、王柬之の子孫がこんなにまで貧乏になったのか。」
 と歎息してふりかえった。そこに敗れた竈はあったが、火を焚いた痕も見えなかった。老婆はいった。
「こんなことで、どうして生きてゆかれる。」
 そこで細君は細かに貧乏の状態を話して泣きじゃくりした。老婆は彼の釵を細君にやって、
「それを質に入れてお米を買うがいい。」
 といいつけて、帰りしたくをして、
「三日したらまた来るよ。」
 といった。王成はそれをおし…

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