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イプセン百年祭講演
イプセンひゃくねんさいこうえん
作品ID49277
著者久保 栄
文字遣い新字新仮名
底本 「久保 栄全集 第五巻」 三一書房
1962(昭和37)年10月5日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2009-01-01 / 2014-09-21
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 来る三月二十日は、近代劇の父と仰がれるヘンリック・イプセンの生誕百年の記念日に相当いたします。今年(一九二八年)はどういう廻り合せか、世界的な劇作家の生誕何年という数字が、しきりとかち合いまして、たとえばロシアのトルストイがイプセンとおない年の生誕百年、マクシム・ゴリキイが六十年記念、ドイツ劇壇ではシュテルンハイムとカイザアが、そろって生誕五十年を迎えます。
 余談は措いて、このイプセン百年祭がどういう規模結構のもとに挙行されるかということが今日の話題であります。で、現在までにわれわれ文芸部の手もとへ集った資料について述べますと、まず二月下旬、ノルウエ公使館にはいった電報によって、彼の生国における演劇的催しの輪郭をほぼ知ることができました。芝居の興行のほうから申上げますが、首府オスロ――旧名クリスチャニヤ――の国民劇場では、三月十四日から記念祭の当日までに、「ブランド」「青年結社」「幽霊」「社会の敵」「鴨」「ロスメルスホルム」などという代表作を順次上演する予定で、これらは大部分、すでに同劇場のレパートリーの中にあるものだそうです。なお、第二国民劇場においても、「オストラアトのインゲル夫人」「恋の喜劇」を舞台にのぼせ、またベルゲン市の国民劇場も、「ソルハウグの饗宴」「ペエル・ギュント」を上演する意向だということです。こうして、ノルウエにおける二つの演劇都市、すなわちオスロおよびベルゲン市の各劇場の出しものが少しも重複していないところを見ますと、あるいは相互に打合せをして、イプセンの戯曲をこの光輝ある機会に一つでも多く舞台の上に復活させる計画を立てたものではないかと想像されます。もちろん、今のべた三つの劇場のほかに、なお国内の四つの有力な劇場が、いずれもイプセン劇の模範興行を行うそうで、二十日当日には、首府オスロへ観劇に集るもののために、汽車の賃銀割引までが計画されていると聞きます。
 これは芝居のほうのことですが、百年祭そのものは、公使館で確めたところや最近朝日新聞社へはいったニュースを綜合しますと、十四日から二十二日まで九日間引つづいて催される予定で、そのために政府は独英仏伊その他十ヶ国からイプセン研究者イプセン役者の代表百名を国賓として招待しまして、彼の生誕地たるシーンや、彼が薬剤師の徒弟としてはじめて人生を観察したグリムスタットという小都会や、また彼が劇場の文芸顧問として、演劇の実際的知識を養ったベルゲン市などを巡遊しつつ、盛大な祝賀会を催すそうであります。またオスロ大学の主催でイプセンに関する特別講座が開かれ、これは一般に公開されます。おそらく国外から招かれる知名のイプセン学者――たとえば、アルフレッド・ケル、モンティ・ヤコブス、ベルンハルト・デイボルトなどの研究発表は、ここで行われるものと推定されます。なお、招かれた人々のうち、ゲルハルト・ハウプト…

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