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迷信と宗教
めいしんとしゅうきょう
作品ID49374
著者井上 円了
文字遣い新字新仮名
底本 「井上円了 妖怪学全集 第5巻」 柏書房
2000(平成12)年5月10日
入力者門田裕志
校正者岡村和彦
公開 / 更新2016-04-01 / 2016-03-17
長さの目安約 304 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

序言


 わが国は今日なお迷信盛んにして、宗教もその雲におおわれ、精神界はこれがために暗黒なるありさまなれば、余は人文のため、国家のために、迷信と宗教との別を明らかにし、有害なる迷信を除きて、正しき信仰の下に宗教の光明を発揮せしむるの必要を感じ、一片報国の微衷より本書を講述するに至れり。
 本書の目的は、高等教育を受けたる人士を相手とするにあらず、中等以下の社会、あるいは小学卒業の程度の人にして、迷信の海に漂いつつある人に示さんとするにあれば、高尚の学説を加えず、煩雑の論理を避け、平易にして了解しやすきを主とせり。
 本書は家庭教育の教訓材料、社会教育の講話材料に供給せんとの予想にて、できうるだけ例話、事実談を多く引用することとし、また、なるべく興味に富めるものを選抜することとなせり。しかして、その談話は古人の書より抄録するよりも、余が内外各国の実地を踏査して、直接に見聞せしものを多く掲記したり。ゆえに、教育家および宗教家はもちろん、いやしくも家庭の父兄たるものは、いかなる社会を問わず、本書を一読して、教訓、講話の資料に採用せられんことを望む。

大正五年二月
著者 しるす
[#改ページ]

第一段 迷信の定義


 ここに迷信と宗教との関係を述ぶるに当たり、まず、迷信とはなんぞやの定義を知らなければならぬ。しかるに、迷信はその範囲はなはだ広く、かつその種類すこぶる多くして、精確なる定義を与うることは困難である。ただ普通の見解によれば、道理なきことまたは道理に背きたることを、道理あるがごとく、または道理にかなうがごとくに誤って信ずることであろう。そのほかに、なし得べからざることをなし得べしと信じ、これによって己の私情を満たし、僥倖を望む意味も加わっておるように思う。
 先年、文部省にて編纂せられし『国定小学修身書』に迷信の課題が掲げてあり、また迷信の種類も列してあったから、これによって、およそ迷信とはかかるものかというを知ることがよろしかろう。まず、尋常科の注意の下に、
 迷信は地方により種々雑多にて、四国地方の犬神のごとき、出雲地方の人狐のごとき、信濃地方のオサキのごときは、特にその著しきものなり。
とあり、またそのつぎに左の八項を掲げて、これを諭すべしと書いてある。
(一)狐狸などの人をたぶらかし、または人につくということのなきこと。
(二)天狗というもののなきこと。
(三)祟ということのなきこと。
(四)怪しげなる加持祈祷をなすものを信ぜぬこと。
(五)まじない、神水等の効の信頼すべからざること。
(六)卜筮、御鬮、人相、家相、鬼門、方位、九星、墨色等を信ぜぬこと。
(七)縁起、日柄等にかかわることのあしきこと。
(八)その他、すべてこれらに類するものを信ぜぬこと。
 つぎに、高等の方には本文中に、
 世には種々の迷信あり。幽霊ありといい、天狗ありと…

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