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阿英
あえい
作品ID4939
著者蒲 松齢
翻訳者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「聊斎志異」 明徳出版社
1997(平成9)年4月30日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-10-06 / 2014-09-21
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 甘玉は幼な名を璧人といっていた。廬陵の人であった。両親が早く亡くなったので、五歳になる弟の[#挿絵]、幼な名を双璧というのを養うことになったが、生れつき友愛の情に厚いので、自分の子供のようにして世話をした。そして[#挿絵]がだんだん大きくなったところで、容貌が人にすぐれているうえに、慧で文章が上手であったから、玉はますますそれを可愛がった。そしていつもいった。
「弟は人にすぐれているから、良い細君がなくてはいけない。」
 そして選択をしすぎるので、婚約がどうしても成立しなかった。その時玉は匡山の寺へいって勉強していた。ある夜初更のころ、枕に就いたところで、窓の外で女の声がした。そっと起きて覘いてみると、三、四人の女郎が地べたへ敷物を敷いて坐り、やはり三、四人の婢がその前に酒と肴をならべていた。女は皆すぐれて美しい容色をしていた。一人の女がいった。
「秦さん、秦さん、阿英さんはなぜ来ないの。」
 下の方に坐っていた者がいった。
「昨日、凾谷から来たのですが、悪者に右の臂を傷つけられたものですから、一緒に来られなかったのよ。ほんとに残念よ。」
 一人の女がいった。
「私、昨夜夢を見たのですが、今に動悸がするのよ。」
 下の方に坐っていた者が手を揺っていった。
「およしなさいよ、およしなさいよ。今晩皆で面白く遊んでるじゃありませんか。おっかながるからだめだわ。」
 女は笑っていった。
「お前さん怯だよ。何も虎や狼がくわえていくのじゃあるまいし。もしお前さんが、それをいわないようにしてもらいたいなら、一曲お歌いなさいよ。」
 女はそこで低い声で朗吟[#ルビの「ろうざん」はママ]した。
間階桃花取次に開く
昨日踏青小約未だ応に乖らざるべし
嘱付す東隣の女伴
少く待ちて相催すなかれ
鳳頭鞋子を着け得て即ち当に来るべし
 朗吟が終った。一座の者で賞めない者はなかった。一座はやがて笑い話になった。不意に大きな男があらわれて来た。それは恐ろしい顔の鶻のように眼のぎらぎらと光る男であった。女達は口ぐちにいった。
「妖怪だ。」
 皆あわてふためいて鳥が飛び散るようにばらばらになって逃げた。ただ朗吟していた者だけは、なよなよとした姿でためらっているうちにつかまえられ、啼き叫びながら一生懸命になって抵抗した。怪しい男は吼えるように怒って、女の手に噛みついて指を噛み断り、それをびしゃびしゃと噛んだ。女はそこで地べたに[#挿絵]れて死んだようになった。玉は気の毒でたまらなかった。そこで急いで剣を抽いて出ていって切りつけた。剣は怪しい男の股に中って一方の股が落ちた。怪しい男は悲鳴をあげて逃げていった。
 玉は女を抱きかかえて室の中へ伴れて来た。女の顔色は土のようになっていた。見ると襟から袖にかけてべっとりと血がついていた。その指を験べると右の拇が断れていた。玉は帛を引き裂いてそれをくるん…

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