えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


広告

屋上の狂人
おくじょうのきょうじん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「菊池寛 短篇と戯曲」 文芸春秋
1988(昭和63)年3月25日
入力者真先芳秋
校正者大野晋
公開 / 更新2000-02-08 / 2014-09-17
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
えあ草紙で読む
HTMLページで読む

広告

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

find Audible YouTube

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

楽天Koboで表紙を検索

広告

本文より

人物
 狂人  勝島義太郎   二十四歳
 その弟   末次郎   十七歳の中学生
 その父   義助
 その母   およし
 隣の人   藤作
 下男    吉治    二十歳
 巫女と称する女 五十歳位

 明治三十年代

 瀬戸内海の讃岐に属する島
舞台 この小さき島にては、屈指の財産家なる勝島の家の裏庭。家の内部は結いめぐらした竹垣に遮ぎられて見えない。高い屋根ばかりが、初夏の濃緑な南国の空を画っている。左手に海が光って見える。この家の長男なる義太郎は、正面に見ゆる屋根の頂上に蹲踞して海上を凝視している。家の内部から父の声がきこえる。

義助 (姿は見えないで)義め、また屋根へ上っとるんやな。こなにかんかん照っとるのに、暑気するがなあ。
(縁側へ出て)吉治! 吉治はおらんのか。
吉治 (右手から姿を現す)へえなんぞ御用ですか。
義助 義太郎を降してくれんか。こんなに暑い日に帽子も被らんで、暑気がするがなあ。どこから屋根へ上るんやろ。この間いうた納屋のところは針金を張ったんやろな。
吉治 そらもう、ちゃんとええようにしてありますんや。
義助 (竹垣の折戸から舞台へ出て来ながら、屋根を見上げて)あなに焼石のような瓦の上に座って、なんともないんやろか。義太郎! 早う降りて来い。そなな暑い所におったら暑気して死んでしまうぞ。
吉治 若旦那! 降りとまあせよ。そなな所におったら身体のどくやがなあ。
義助 義やあ、早う降りて来んかい。何しとんやそなな所で。早う降りんかい、義やあ!
義太郎 (けろりとしたまま)何や。
義助 何やでないわい。早う降りて来いよ。お日さんにかんかん照り付けられて、暑気するがなあ。さあ、すぐ降りて来い。降りて来んと下から竿でつつくぞう。
義太郎 (駄々をこねるように)厭やあ、面白いことがありよるんやもの。金比羅さんの天狗さんの正念坊さんが雲の中で踊っとる。緋の衣を着て天人様と一緒に踊りよる。わしに来い来いいうんや。
義助 阿呆なこというない。お前にとりついとる狐が誑しよるんやがなあ。降りんかい。
義太郎 (狂人らしい欣びに溢れて)面白うやりよるわい。わしも行きたいなあ。待っといで、わしも行くけになあ。
義助 そななことをいうとると、またいつかのように落ち崩るぞ。気違いの上にまた片輪にまでなりゃがって、親に迷惑ばっかしかけやがる。降りんかい阿呆め。
吉治 旦那さん、そんなに怒ったって、相手が若旦那やもの効くもんですか。それよりか、若旦那の好きなあぶらげを買うて来ましょうか。あれを見せたらすぐ降りるけに。
義助 それより竿で突ついてやれ、かまやせんわい。
吉治 そななむごいことができるもんな。若旦那は何も知らんのや。皆憑いている者がさせておるんやけに。
義助 屋根のぐるりに忍び返しをつけたらどうやろうな、どうしても上れんように。
吉治 ど…

えあ草紙で読む

ライフメディアへ登録

Koboユーザー必見!
楽天スーパーポイントとは別に
価格の5%がポイントに!

find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2016 Sato Kazuhiko